Contents
設問1
別件逮捕・勾留に関する捜査手法の適法性については,別件基準説と本件基準説を中心に多様な考え方がある
まずは何を基準に適法性を判断するのか
逮捕①ないし④及びこれらに引き続く身体拘束について,それぞれ
法定の要件(刑事訴訟法第199条,第212条,第207条第1項により準用される第60条等)を満たすかどうか
逮捕①について
店員Wが複数の中から甲の写真を選択して犯人の1人に間違いないと供述していることなどの具体的な事情を通常逮捕の要件に当てはめて検討すべきである
甲の供述態度等を踏まえた勾留の要件の検討
甲に対する取調べが,連日,強盗事件を中心に行われていたこと
平成22年5月15日に余罪の有無について確認されるや,甲は,殺人,死体遺棄の事実を認めた
供述録取書等の作成については拒絶した
17日以降は,毎日約30分だけ供述録取書等の作成について説得が続けられていたことをどのように評価するのか ※どのような題意か分からない別件勾留が違法となるかどうかの判断材料ですね。
逮捕②について
現行犯逮捕又は準現行犯逮捕の要件に当てはめて検討することになる
同種前歴の存在や乙の生活状況等を踏まえた勾留の要件の検討
逮捕③及び④,そしてこれらに引き続く身体拘束
,実質的に同一被疑事実による逮捕・勾留の蒸し返しでないかどうか
別件の取調べ状況と本件の取調べ状況を踏まえて論じる
設問2
差し押さえた証拠物(パソコン及び携帯電話)に残っていたメールを添付した捜査報告書(資料1及び資料2)について,それぞれ,その要証事実との関係での証拠能力を問うことにより,伝聞法則の正確な理解と具体的事実への適用能力を試す
機械的に紙に印刷してそれぞれの捜査報告書に添付したものであるから,捜査官が五官の作用によって事物の存在・状態を観察して認識する作用である検証の結果を記載した書面に類似した書面として,刑事訴訟法第321条第3項により,作成者Pが公判廷で真正に作成されたものであることを供述すれば伝聞例外として証拠能力が付与されるという書面全体の性質を論じた上で
資料1の捜査報告書
「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」とする立証趣旨
まずはメール全体のBの供述についての証拠能力を検討する必要がある
伝聞証拠に該当すると解した上で,伝聞例外を定める刑事訴訟法第321条第1項第3号によりその証拠能力の有無を検討する
「死体遺棄に関する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分
の甲及び乙の発言内容についてはそれ自体の伝聞該当性の問題が生じ得ることを指摘する必要がある
死体遺棄に関する甲及び乙のこれら発言部分は,甲及び乙の内心の状態を推認させる発言,又は死体遺棄の共謀の構成事実となる発言と見ることができるから,伝聞証拠であるか否かが問題となることを意識して論述する必要がある
「殺人に関する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分
V女を殺害した旨のBに対する甲及び乙の発言内容から立証することになる
甲及び乙のこれらの発言は,知覚・記憶・表現の過程を経るものであり,いわゆる再伝聞に該当する
刑事訴訟法第324条第1項が供述代用書面に準用できるか 伝聞例外に該当するかどうかを検討する自己を被告人とする関係では刑事訴訟法第322条第1項,共犯者を被告人とする関係では同法第321条第1項第3号の適用が問題となることの指摘が必要
後者については,被告人甲の関係では供述者たる乙が,被告人乙の関係では供述者たる甲が公判で黙秘しない限りは,同号の要件を満たすことはないことを論じる必要
資料2の捜査報告書
「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」とする立証趣旨
これは死体遺棄の事実を直接立証するものでなく,の報酬の支払請求に関するメールが存在することを情況証拠として用いることに意味があるから,伝聞証拠には該当しないとの理解が可能
設問1
逮捕及びこれに引き続く身体拘束の適法性について問われているのであるから,まずは刑事訴訟法の定める逮捕及び勾留の各要件(刑事訴訟法第199条,第212条,第207条第1項により準用される第60条等)について当てはめを行う必要
これらについて全く触れないまま,別件逮捕・勾留に関する抽象論を記述するだけで終わっているような答案が相当数見受けられた
設問2
捜査報告書全体について,捜査機関による検証に準じたものとして,刑事訴訟法第321条第3項により証拠能力が付与されることを前提にしなければならない
メールを印刷したものであるから,知覚,記憶,表現の過程に誤りが入り込む余地はなく,非伝聞証拠であるなどと断じた無理解を露呈する答案さえも見受けられた
資料1添付のBからA女宛てのメール全体
内容の真実性を要証事実とする伝聞証拠に該当し,その証拠能力について,刑事訴訟法第321条第1項第3号の各要件に照らして検討する必要がある
同メールはBの供述書であるのに,その指摘を欠き,あるいはこれを供述録取書として論ずる答案が相当数見受けられた
同メール中の甲及び乙の発言部分に関しては,
「死体遺棄に関する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分と,「殺人に関する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分とに分けられ
前者については発言内容それ自体の伝聞該当性の問題が生じ得るものであったにもかかわらず,この点に気付いている答案は極めてわずかしかなかった
自己を被告人とする関係では刑事訴訟法第322条第1項の適用が,共犯者を被告人とする関係では同法第321条第1項第3号の適用が問題となることについてまで論じられていた答案は少数
同人らの署名又は押印がないことを理由に証拠能力を否定するなど,基本的理解の欠如が著しい答案も散見された
資料2の捜査報告書添付の各メール
そのような内容でのメールのやりとりが存在したことが要証事実であり,伝聞証拠には該当しないことが明白あるにもかかわらず,伝聞証拠であることを当然の前提としている
「交信記録の存在」である場合には非伝聞証拠であり,「メールの内容」である場合には伝聞証拠であるなどと,検察官の立証趣旨を勝手に断じて論ずる答案が,いまだに多数見受けられた
別件基準説と本件基準説
別件逮捕、別件勾留には2つのタイプがある
別件についても逮捕勾留の理由、必要がない
別件については逮捕勾留の理由、必要がある
違法と考える基準が本件説と別件説では異なる
本件基準説 本件について令状主義が潜脱されていると考える
別件基準説 余罪として取り調べの許される範囲を超えて本件の取り調べのために別件の身柄拘束が利用される
問題は後者の別件逮捕勾留が違法となるのはどの範囲かという点である。
本件基準説からは結局別件で逮捕して取り調べを行えば違法となる。
別件基準説では、要するに本件の取り調べがあたかも本件について身柄の拘束をしているのと同じように行われていれば違法となる。
実際のところ判別は難しいに違いない。そもそも当該逮捕勾留の要件に違法性がない場合別件逮捕というのは捜査機関側意図が分かっている場合の言い方にすぎず逮捕自体が適法であるなら、別件逮捕自体を違法とするなんらかの基準が必要になる。
このように考えると、別件逮捕を違法とするのなら本件について取り調べようが取り調べまいが違法という本件基準説に傾く。
しかし、適正な手続きを踏んだ逮捕自体は適法だと考える別件基準説の場合は、取り調べの手法を違法と考えることになる。
逮捕①に引き続く勾留について「同月17日から,連日 1日約30分間ずつ,V女に対する殺人,死体遺棄事件に関する上申書及び供述録取書の作成に応じるように説得を続けた」とあるから本件基準説はもとより、別件基準説からも違法となる可能性が高い。
平成23年新司法試験論文式 刑事系第2問の感想と参考答案
この参考答案ではそれほど単純には考えていない。
平成23年度新司法試験 刑事系 第2問 再現答案その1
合格者の方の答案を見ると、いい意味で肩透かしを食らう。出題の趣旨とか1問で2日くらいかけて検討していたのに(笑)
しかし、別件基準説とか本件基準説とかどっちでもいいわけで、この問題の場合各説を批判しろとかそういう問題でもない。そもそも様々な説があるのだから極論すれば論理的整合性がとれていれば自説でも構わない。
そして、平成23年新司法試験論文式 刑事系第2問の感想と参考答案 にあるように、「結果的に、細かいことを気にせず、いつもどおり書いた者が、上位になる。」まさにそうだった(笑)
乙の逮捕の場面では確かにおかしな表現がある。この点については上記リンク先に詳しいが、いずれにしろこの問題、悪問の部類に入るな。
深い検討をすると逆に足元をすくわれる。
逮捕の要件と勾留の要件
【逮捕①】前記強盗の被疑事実で甲に係る逮捕状の発付を受け,同月11日,同逮捕状に基づき,甲を通常逮捕した
Wが甲の写真を選択して犯人の1人に間違いない旨を供述したことから,その旨の供述録取書を作成 疎明資料
同日送致 同日中に前記強盗の被疑事実で勾留された
【逮捕②】万引きしたのを現認し,乙が同店を出たところで,乙を呼び止めた。すると,乙が突然逃げ出したので,司法警察員Pは,直ちに,乙を追い掛けて現行犯逮捕した 同月13日
同日同月14日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記窃盗の被疑事実で勾留された
【甲につき,逮捕③。乙につき,逮捕④。】甲及び乙は,V女に対する殺人,死体遺棄の被疑事実で通常逮捕された
同月23日,H地方検察庁検察官に送致された上,同日中に前記殺人,死体遺棄の被疑事実で勾留された
メールを印刷したものの証拠能力とは
捜査報告書は供述部分を含めば321条①3号文書。含まなければ321③。
メールをそのまま公判廷に提出する事はできないから印刷して提出するが、被告人以外の者が自ら供述しているものを印刷しているに等しいから立証内容によっては321①3文書にあたる場合がある。
資料①は立証趣旨が殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在なので伝聞証拠にあたり証拠能力が否定されるが、321①3に該当すれば証拠能力が認められる。
さらに資料1の場合はメールの中身が甲乙の再伝聞を含んでいる。
甲乙は共同被告人である。
また、再伝聞についての直接証拠能力を定めた規定はない。
難しく考えずに 再伝聞 324①準用
本問の場合メール作成者Bは被告人以外の者なので324①が適用され、結局322が適用される。
第三百二十四条 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人の供述をその内容とするものについては、第三百二十二条の規定を準用する。
② 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするものについては、第三百二十一条第一項第三号の規定を準用する。
メールを写真撮影した場合
(1) メールやLINEのメッセージを表示した画面を撮影した写真撮影報告書
「検証の性質を有しますので、法321条3項により、作成者が「作成の真正」を証言すれば、メールやLINEの内容が証拠となります」
「しかし、メールやLINEのメッセージの内容の真実性を問題とする場合には、当然、メール作成者の供述書に該当し、伝聞法則の適用を受けます」
メール復元は鑑定
「メールの復元は、電話会社の専門的科学的技術を用いた作業となりますので、その性質は鑑定であり、その復元結果の回答書は法321条4項が準用される鑑定書となります」
「メールを読み出し、それを反訳して「メール内容反訳報告書」などの捜査報告書を作成すれば、それは法321条3項の検証の結果を記載した書面となります」
共謀の伝聞該当性の問題
「死体遺棄に関する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分と,「殺人に関する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分とに分けられ
前者については発言内容それ自体の伝聞該当性の問題が生じ得る、と採点実感にある。最初意味が分からなかったが(伝聞でしょと思った)、出題の趣旨を改めてみると
「死体遺棄に関する甲及び乙のこれら発言部分は,甲及び乙の内心の状態を推認させる発言,又は死体遺棄の共謀の構成事実となる発言と見ることができるから,伝聞証拠であるか否かが問題となることを意識して論述する必要がある」
確かに伝聞であるかどうかは論証する必要があるだろうが、それは殺人に関しても同じはずである。
この言い方だと死体遺棄に関しての発言部分は非伝聞だとでも言いたげである。
※内心の状態を推認させる発言の部分は非伝聞に該当する場合があるので、それをきちんと切り分けろ、という主旨だろう
また、共謀の構成事実なる発言とあるので、いわゆる共謀を証明する場合には非伝聞であるという趣旨かもしれないが、立証趣旨が「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」であるのと、死体遺棄の共謀の立証趣旨は違うのではないだろうか。立証趣旨を素直に受け取れば死体遺棄という犯罪事実があったことであろう。共謀はなくても死体遺棄は各々で行うこともできる。
共謀があったとしても死体遺棄自体は行われていない事もあり得るので腑に落ちない出題の趣旨と採点実感である。
立証趣旨と要証事実の違 共謀を証明する文書の非伝聞性
裁判所が証拠上認定できると考える事実が要証事実であり、検察官または被告人の一方当事者が設定するのが立証趣旨である
本件文書の内容が真実であるかどうかは問題とはならず、本件文書の存在自体が乙丙間のVに対する詐欺の共謀の存在を推認
共謀の事実の存在を証明するには内容の真実性が不要というロジック
確かに当該犯罪を共謀したかどうかという事実を判断するために文書の内容に書いてある細かい内容が例え真実でなくても構わないようにも思える。
しかし、そうすると、仮にまったく別人が別の犯罪について書いた文書であってもよいことになるがそんなことはありえない。
「文書の存在」が共謀を推認させるのは当該犯罪についての共謀について書かれているからだろう。そしてその共謀についての真実性は問題にならないから非伝聞だといっていることになるがどうにも腑に落ちないロジックである。
「本件メモの要証事実は、丙から乙に対して本件メモ通りの指示があったことであり、本件メモに記載された内容の真実性が問題となりますので、本件メモは伝聞証拠といえる」と続くが一体どっちだ。
共謀の事実の存在を証明するメモは伝聞証拠か否かまとめ
共犯者のメモの伝聞性 東京高裁昭和58年
所論のメモについて原審は、原判示第二の事実全部を認定する証拠として、押収してあるノート(抄本)一冊(当裁判所昭和五七年押第九一号符号八、原審昭和五六年押第四五八号符号八)(以下「久留メモ」という)を用いている。ところで、記録によれば、右久留メモは、検察官が原審第五回公判期日において、立証趣旨として、戦術会議及び犯行準備等に関する記載のあるメモの存在として取調の請求をし、弁護人は異議がない旨の意見を述べ同公判期日において直ちに採用決定され、証拠調が行なわれていることが明らかである。所論は、久留メモについては、検察官の立証趣旨はメモの存在というに過ぎないところ、証拠物でも書面の意義が証拠となる場合は証拠書類に準じて証拠能力を判断すべきであるから、原判決が右メモにつき、金員喝取の共謀を認定する証拠として用いているのは、採証法則を誤つたものであると主張する。しかしながら、前示のように、久留メモの立証趣旨については、戦術会議及び犯行準備に関する記載のあるメモの存在とされていたのであり、所論のように単にメモの存在とされていたわけではない。本件においては、所論のごとく、メモの存在のみを立証趣旨として取り調べても意味をなさないのであつて、原審における訴訟手続を合理的に解釈するかぎり、検察官は、本件犯行の事前共謀を立証するものとして右のメモの証拠調請求をし、弁護人の異議がない旨の意見を経て、裁判所がこれを取り調べたものと解すべきである。もつとも、原審が、久留メモの証拠能力につき、どのように解していたかについては、記録上必ずしも明らかにされていない。すなわち、それは、いわゆる供述証拠ではあるけれども、伝聞禁止の法則の適用されない場合であると解したのか、あるいは、伝聞禁止の法則の例外として証拠能力があると解したのかは明らかではないのである。おそらくは、原審第五回公判期日において、久留メモについての弁護人の意見を徴するに際し、同意、不同意の形でなく、証拠調に対する異議の有無の形において、その意見を徴している点を入るときは、原審としては、久留メモについては、伝聞禁止の法則の適用されない場合と解していたことが推測できるのである。人の意思、計画を記載したメモについては、その意思、計画を立証するためには、伝聞禁止の法則の適用はないと解することが可能である。それは、知覚、記憶、表現、叙述を前提とする供述証拠と異なり、知覚、記憶を欠落するのであるから、その作成が真摯になされたことが証明されれば、必ずしも原供述者を証人として尋問し、反対尋問によりその信用性をテストする必要はないと解されるからである。そしてこの点は個人の単独犯行についてはもとより、数人共謀の共犯事案についても、その共謀に関する犯行計画を記載したメモについては同様に考えることができる。もつとも、右の久留メモには、「(25) 確認点-しや罪といしや料」との記載が認められるが、右の久留メモが取調べられた第五回公判期日の段階では、これを何人が作成したのか、作成者自身が直接確認点の討論等に参加した体験事実を記載したものか、再伝聞事項を記載したものか不明であつたのである。しかし、弁護人請求の証人久留満秀の原審第一三回公判期日における供述によれば、原判示69の会に加入している久留は、昭和五五年九月二七日夜、当時同会に加入していた桂某より、中野、酒井の両名が飯場の手配師に腕時計と金を取られたことにより、同会及び原判示山日労・山統労の三者が右飯場に対し闘争を取り組むことになり、同月二五日の右三者会議で確認された事項のあること等を初めて聞き、右聞知した二五日の確認点をノートに「(25)確認点-しや罪といしや料」と書き留めたことが明らかとなつたのである。すなわち、右の公判期日の段階においては、久留メモの右記載部分は、原供述者を桂某とする供述証拠であることが明らかとなつたのである。前記のように、数人共謀の共犯事案において、その共謀にかかる犯行計画を記載したメモは、それが真摯に作成されたと認められるかぎり、伝聞禁止の法則の適用されない場合として証拠能力を認める余地があるといえよう。ただ、この場合においてはその犯行計画を記載したメモについては、それが最終的に共犯者全員の共謀の意思の合致するところとして確認されたものであることが前提とならなければならないのである。本件についてこれをみるに、久留メモに記載された右の点が共犯者数名の共謀の意思の合致するところとして確認されたか否か、確認されたと認定することができないわけではない。したがつて、確認されたものとすれば、久留メモに記載された右の点に証拠能力を認めるべきは当然であろう。のみならず、確認されなかつたとしても、久留メモに記載された右の点は、以下の理由によつて、その証拠能力を取得するものと考える。すなわち、久留メモのうち、右の記載部分は、同月二五日の三者会議において、これに出席した桂某が、謝罪と慰謝料を要求する旨の発言を聞き、これを久留に伝え、久留が更に右メモに記載したものであるから、原供述者を桂某とする再伝聞供述であると解しなければならない。したがつて、この点を被告人らの共謀の証拠として使用するためには、当然に弁護人の同意を必要とする場合であつたのである。しかしながら、右の久留メモについては、前記のように、原審第五回公判期日において、検察官の証拠調請求に対し、弁謹人は異議がない旨の意見を述べており、更に、原審第一三回公判期日において、久留メモ中の右の記載部分が再伝聞供述であることが明らかとなつた時点においても、弁護人は先の証拠調に異議がない旨の意見の変更を申し出ることなく、あるいは、右証拠の排除を申し出ることもなく、また、桂某を証人として申請し、その供述の正確性を吟味することもしていないのである。このような訴訟の経過をみるときは、久留メモの右記載部分については、弁護人として桂某に対する反対尋問権を放棄したものと解されてもけだしやむを得ないのであつて、結局、久留メモを原判示第二の恐喝の共謀を認定する証拠とした原審の訴訟手続に法令違反があると主張する所論は、その余の点につき判断するまでもなく、採用することができない。
この判例がリーディングケースのように取り上げられるが
「人の意思、計画を記載したメモについては、その意思、計画を立証するためには、伝聞禁止の法則の適用はないと解することが可能である」という部分が独り歩きしているように感じる。
「立証趣旨として、戦術会議及び犯行準備等に関する記載のあるメモの存在として取調の請求」
単にメモの存在だけを取り調べても意味がないことは判例も指摘している。重要なのは当該犯罪に関する記載のあるメモの存在であるという点である。
そうすると、内容の真実性(そういう戦略会議が実際に行われたとか犯罪が行われたとか)は問題ではないことは明らかである。
また、
「久留メモに記載された右の点が共犯者数名の共謀の意思の合致するところとして確認されたか否か、確認されたと認定することができないわけではない。したがつて、確認されたものとすれば、久留メモに記載された右の点に証拠能力を認めるべきは当然であろう」
と言っており、このメモの存在のみで共謀を認定しているわけではない。
あくまで共謀の事実を推認させるようなメモの存在は伝聞証拠にあたらないと言っているに過ぎず、直接的に共謀が認定されるとは言っていない。
さらに、
「これに出席した桂某が、謝罪と慰謝料を要求する旨の発言を聞き、これを久留に伝え、久留が更に右メモに記載したものであるから、原供述者を桂某とする再伝聞供述であると解しなければならない」
ともしており、伝聞あるいは再伝聞にあたる部分があり、この部分については弁護人の同意が得られているとも述べている。
甲の発言「V女を運んだり,V女を埋める道具を積み込むには,俺や乙の車では小さい。お前の大きい車を貸してほしい。V女の死体を捨てるのを手伝ってくれ。お礼として,100万円をお前にやるから。」
乙の発言「死体を捨てるのを手伝ってくれ。」
以上の発言だけからは死体遺棄を行う前の発言であり、確かに共謀を推認させるものにしかならないが。
共謀の存在を立証趣旨とする場合と、共謀の意図があったことを立証する場合
共謀の存在を立証しようとする場合は伝聞にあたり、共謀の意図を立証する場合は非伝聞となる。
この違いを意識して論ぜよという意味かもしれないが、いずれにしろ立証趣旨にはないから、死体遺棄に関する甲乙の発言は非伝聞である。
従って死体遺棄に関する発言は非伝聞であり、殺人については再伝聞にあたる、ということを論ぜよという趣旨かもしれない。
ここで気づく、当初、死体遺棄に関する甲乙の発言を伝聞だと思っていたことを。。。(笑)
伝聞か非伝聞かのメルクマーク
発言者を尋問すれば確認できる事項は非伝聞
尋問しても当該事項の真偽が確定できない場合は伝聞
内容の真実性 → 伝聞
存在自体 → 非伝聞
資料2については、立証趣旨が犯罪事実を立証するものではないから非伝聞にあたるで問題ないだろう。
伝聞にあたるかどうかは立証趣旨との兼ね合いであるから、当該供述が何を言っているかというより何を立証するために利用されるかという観点がまずありきである。
316の15 6号文書
伝聞についての短答過去問を漁っていたら直接伝聞とは関係ないがこんなのがあったので念のため。
H26〔第37問〕(配点:3)
次のⅠ及びⅡの【見解】は,公判前整理手続において刑事訴訟法第316条の15により証拠開
示の対象となる証拠の類型として,「被告人以外の者の供述録取書等であって,検察官が特定の検
察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」を掲げる同
条第1項第6号の解釈に関するものである。
「参考人から『・・・』旨聴き取った。」との捜査官の聴取捜査報告書(以下「本件捜査報告
書」という。)が存在し,参考人の「・・・」という供述が「検察官が特定の検察官請求証拠によ
り直接証明しようとする事実の有無に関する」内容のものである場合,この本件捜査報告書が前記
の証拠の類型(以下「6号の証拠の類型」という。)に該当するかどうかについて述べた後記アか
らオまでの【記述】のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。ただし,
「供述録取書等」とは,「供述書,供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの・
・・」(同法第316条の14第2号)をいう。(解答欄は,[No.68])
【見 解】
Ⅰ.「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述」は,
供述者が直接体験した事実に関する供述に限る。
Ⅱ.「検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述」に
は,供述者が直接体験した事実に関する供述のほか,供述者が他者から伝聞した供述も含む。
【記 述】
ア.本件捜査報告書について,参考人の供述を録取した供述録取書であるとの見方に立ち,Ⅰの
【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有
無に関する供述を内容とするもの」といえるが,参考人の署名若しくは押印がない場合には
「供述録取書等」に当たらないので,6号の証拠の類型に該当しない。
イ.本件捜査報告書について,参考人の供述を録取した供述録取書であるとの見方に立ち,Ⅰの
【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有
無に関する供述を内容とするもの」といえ,捜査官の署名若しくは押印がある場合には「供述
録取書等」に当たるので,6号の証拠の類型に該当する。
ウ.本件捜査報告書について,参考人の供述を聴き取った捜査官の供述書であるとの見方に立ち,
Ⅰの【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実
の有無に関する供述を内容とするもの」といえ,捜査官の供述書として「供述録取書等」に当
たるから,6号の証拠の類型に該当する。
エ.本件捜査報告書について,参考人の供述を録取した供述録取書であるとの見方に立ち,Ⅱの
【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有
無に関する供述を内容とするもの」といえず,参考人の署名若しくは押印がない場合には「供
述録取書等」にも当たらないので,6号の証拠の類型に該当しない。
オ.本件捜査報告書について,参考人の供述を聴き取った捜査官の供述書であるとの見方に立ち,
Ⅱの【見解】を採るならば,同報告書は,「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実
の有無に関する供述を内容とするもの」といえ,捜査官の供述書として「供述録取書等」に当
たるから,6号の証拠の類型に該当する。
1.ア ウ 2.ア オ 3.イ エ 4.イ オ 5.ウ エ
正解は2
正直わけがわからない(笑)
まず、何が論点なのか。
参考人の供述が記載されている捜査官作成の捜査報告書が6号の被告人以外の者の供述録取書等に該当するかという問題がある。
捜査報告書には参考人の署名押印がないから供述録取書にはあたらない。
しかし、捜査官の供述書にあたるのではないかという屁理屈である。
ここに言う供述とは原供述であって、捜査官が原供述者から聞き取った内容をその内容とする捜査報告書は6号の供述録取書にあたらない。東京高決平19-8.10.06判時1945.166 条解刑事訴訟法
この問題の見解は要するにこの原供述のみなのか、聞き取った内容でもいいのかという見解になる。
Ⅰは原供述のみ 録取書だと6号には該当しない
Ⅱは伝聞でも可、要するに捜査官の供述書とすればよい
各肢の頭の部分に供述書か供述録取書かに言及があり、これをヒントにすれば意外に簡単である。
供述録取書なら署名押印が必要になる
肢アは供述者の署名押印があれば可と言っているので〇
肢イは捜査官の署名押印があれば可と言っているので×
肢ウは捜査官の供述と言いながら捜査官の供述録録取書と言っているので×
肢エは参考人の供述録取書という見方で、見解Ⅱにたち「検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有
無に関する供述を内容とするもの」といえないとしているが、少なくともこの時点いえないかどうかはわからないので×
肢オは捜査官の供述書という見方で見解にⅡに立ち6号に該当すると言っているので〇