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出題の趣旨
設問3
訴状に被告として記載されていた人物Eとは異なる人物Gが,被告本人として訴訟(第2訴訟)の手続に関与していたという事例について,Gが行った行為の効力がEに及ぶか
当事者確定の基準論の理解を前提に,自説の考え方(ないし問題となる点)を明らかにしつつ,論理を展開する
Gは被告Eとして行為しており,その行為が外形的には訴訟代理の形式をとっていないことをどのように評価するのか
Gの行為を,Eを本人とする訴訟代理行為(ないしその類似行為)ととらえようとするのであれば,その効力を,弁護士代理の原則ないしその趣旨との関係でどのように考えるべきか
既にEになりすましているGの行為を前提として複数回の期日が重ねられてしまっていることへの配慮の要否
設問4
抵当権設定登記抹消請求訴訟(第3訴訟)を題材として,被担保債権に係る債務の不存在確認請求について審理・判断された前訴(第1訴訟)確定判決の既判力がどのように作用するか
質的一部認容判決である条件付給付判決をすることができるか
最高裁の判例は,自認部分は訴訟物とならず,自認部分の存否は既判力によって確定されない
小問(1)
最高裁判例の立場を確認した上で
法律構成①
量的に可分な給付請求権に関する一部請求後の残部請求をめぐる議論状況との対比の下
全部認容判決である前訴確定判決が自認部分についても判断を下しているといえるかどうかを検討すること
法律構成②
請求の放棄構成の技巧性について検討する
請求の放棄について既判力が認められるかどうか
既判力の概念と絡めながら検討する(その際,調書の作成がないことや既判力の基準時についても検討する)
小問(2)
条件付給付判決ができるかどうか
①原告Aが無条件の給付判決を求めているのに対し,質的一部認容判決である条件付給付判決をすることが,民事訴訟法第246条との関係で許容されるかどうか
②現在の給付を命じることを内容とする引換給付判決とは異なり,条件付給付判決が将来の給付を命ずる判決であることとの関係で,同法第135条の要件を検討
③条件付給付判決と全部棄却判決のそれぞれの既判力の客観的範囲(裁判所が認定した残債務額が既判力の対象になるかどうかという問題点を含む。)を比較検討
採点実感
設問3
①当事者の確定の問題があることを踏まえ(当事者適格の問題と考えている受験生もあったが理解が不十分である。)
民事訴訟法でいう原告適格と当事者適格
②GがEになりすましていること(Gは,Eの代理人と称しているのではない。)の法的評価(例えば,顕名なき代理類似のものと考えるなど)
③弁護士代理の原則(民事訴訟法第54条)の趣旨を論じた上で,同原則の趣旨からして事案によって適用が制限される余地があるのか
このような考察なしに
「なりすましを了承しているEには手続保障を及ぼす必要はない」
「信義則上EはそれまでのGの行為を無効であると主張できない(追認を拒絶できない又は追認拒絶は無効である)」
訴訟経済や相手方保護の要請から直ちにGの行為の効力がEに及ぶとするような内容の答案では「一応の水準」に達することは難しい。
GがE本人であるとして訴訟行為を行っていることと任意的訴訟担当の関係
任意的訴訟担当となるとGが当事者になるが,当事者確定の場面でEを当事者とした場合には,これとの関係等が意識されるべき
設問4(1)
法律上の主張として二つの法律構成を挙げ,それらの「長所」「短所」を修習生Sに検討させるという設定である以上,問われている「長所」「短所」とは,Fの法律上の主張として裁判所に認められるかどうかという意味での「長所」「短所」であることは明らかであると考えていた。しかし,必ずしもそのように理解しない答案が相当数見られた
高い評価につながる答案
ア 債務不存在確認請求についての最高裁判例(最高裁昭和40年9月17日第二小法廷判決民集第19巻6号第1533頁など)を踏まえつつ,1500万円の自認部分の存否について,既判力が生じるかという問題について,法律構成①及び法律構成②が,判例と異なり積極説に立つものであることを位置付けた上で,その説の適否を,前訴で十分な攻撃防御の機会が与えられていると評価できるかといった観点から論じられているもの。
イ 法律構成①について,量的に可分な給付請求についての一部請求後の残部請求の裏返しの問題であることを認識した上で,論理を展開しているもの。
ウ 法律構成②については,1500万円の自認部分について請求の放棄と構成することの合理性(Aの合理的な意思解釈として技巧的にすぎないか,調書の記載がないなど通常の手続を踏んでいないことの問題)や請求の放棄に既判力が認められるのかという点が検討されているもの。
「一応の水準」に達することが難しい答案
法律構成①及び法律構成②が,1500万円部分について既判力を認める見解であることが理解できていない答案
既判力を認めれば,長所として紛争の一回的解決に資すること,短所として柔軟な解決ができなくなることを指摘するのみに止まるような答案
法律構成①及び法律構成②の内容を言い換えているに等しく,問われたことに解答しているものとはいえない
設問4(2)
「一応の水準」に達しない
処分権主義の問題であることの理解がうかがわれない答案(例えば,紛争の一回的解決に資することのみから条件付判決を肯定しているようなもの)
「優秀」又は「良好」とならない
単に,Aにとって全部棄却判決よりは有利(全部認容判決よりはFに有利)であるから,原告の意思に反せず,かつ,被告の不意打ちにならないとして結論を導くのみで,500万円の支払を条件とする判決について,分析的な検討ができていない答案
高い評価
Aは,全部棄却判決を受けたとしても,その後に残債務額を弁済した上で改めて抵当権設定登記抹消登記手続を求めることができるということをきちんと理解した上で先決問題である被担保債権の存否・数額についての審理の在り方)を踏まえて,500万円の支払を条件とした場合にその部分に既判力が生じるのかなどを検討した上で,不意打ちになるかどうかを論じている答案
「条件付判決」が将来の給付判決になることに気付かず,引換給付判決として,その可能性を検討している答案が多く見られた
「条件付判決」が将来の給付判決になることを理解し,その要件に論及している答案については,高い評価
設問4小問1
一部不存在確認請求
これには債務の上限を明示するタイプと上限額を明示しないタイプの2つがあるようだ。債務の上限と言うのはその債務全体の額であり、自分が自認している額ではない点に注意。
債務の上限を明示する場合
100万円のうち、20万円の債務は認めるが、20万円を超える部分は存在しないこと確認を求めるような場合。
訴訟物は20万円超の部分。
10万円を超えて債務は存在しない、という判決は申し立て事項を超える。※原告に有利。
30万円を超えて債務は存在しない、という判決は一部認容判決なので申し立て事項の範囲内。
債務の上限を明示しない場合
単に20万円を超える債務は存在しないことの確認を求めるような場合。
結論から言えば上記と同じ処理をする。
もっとも、請求の趣旨の表示で訴訟物の特定として十分かという問題があるが請求の趣旨、原因などから斟酌して特定されれば足りる。
既判力はどうなるのか?
結論から言うと、債務者が自認している部分には既判力は生じない。最判昭40.9.17民集19.6.1533
訴訟物が債務残額の存否ないしその限度であるので既判力はその部分に生じるようだ。※この点明確には書いてなかったが。
以上民事訴訟法講義案P68
これを本問についてみると、本問は債務の上限を示さないタイプとなるが、結局処理としては上限を明示するタイプと同じであるし、また第一訴訟で債務総額は1500万と確定している。
判例によれば自認している部分には既判力が生じないため、1500万という債務全体について既判力がないことになろう。
もっとも、法律構成①②を検討する必要がある。
法律構成①②が言っていることがそもそもよく分からない(笑)ので、この時点でアウトなわけだが。
採点実感によれば法律構成は当該部分に既判力が生じると言う見解のようだ。これを積極説という。初耳(笑)
そもそも小問①は一体何が言いたいのか闇の中で迷う(笑)
第三訴訟でAが主張しているのは債務を弁済したので登記を抹消しろという事である。
これに対してF側の弁護士はその弁済したという事実が既判力に抵触してもはや主張できないんだぜ、という事のようである。
第一訴訟の口頭弁論終結は平成20年4月11日。Aの弁済は平成20年3月15日に500万、平成21年3月15日に1000万。既判力が生じるとしても500万であるが(H20/3/15弁済の500万はA側消極説からは主張できるがF側の積極説からは遮断されて主張できない?)、いずれにしろ1500万の債務が存在していることに既判力が生じるという法律構成①②の長所短所を指摘しろ、というのが問題である。
法律構成①②が何が言いたいのか分からなくても問題構成からF側は既判力が生ずる前提で戦っている事は分かる。
この法律構成のロジックを法的に評価せよ、というのが小問①である。
従って法的評価ではなく、結果としての評価(既判力を認めたら蒸し返し防止になる、など)をしても採点実感での指摘どおり、言葉の言い換えをしているだけになる。
とは言え、この積極説について手持ちの本にも記載がなくネットで検索してもヒットしない。法律系の勉強はネットよりも基本書などが多いのだろう。
小問2
条件付き判決は将来の給付判決なのか
条件付き判決は将来の給付判決になることに気付かず、とあったのでどういう意味か手持ちの本で調べてみてもズバリの解説なし。言わんとすることは分かるものの、それは全ての条件付き判決に言える事ではないような。
参考答案
分かった気になるようでならない。
将来の給付の訴え
いわゆる期限付請求権や条件付請求権のように、既に権利発生の基礎をなす事実上及び法律上の関係が存在し、ただ、これに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証しうる別の一定の事実の発生にかかっているにすぎず、将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により右請求権成立のすべての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて、例外として将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたにすぎないものと解される。」
時間の無駄っぽいので条件付き判決は将来の給付判決と覚えよう。
小問2の内容
全額弁済したので登記を抹消しろというAの訴えに対して、500万の残額があるからそれを支払うのと引き換えに登記抹消という判決が許されるのか。
Aの請求を全部棄却することと比較しながら論ぜよ。というのが問題であるが、引き換え給付判決が許されるのはだいたいわかっているはずで、それだけ書いても合格点は貰えない。※引き換え給付判決ではない
参考答案をまず見たほうが話が早そうだ。
ここではたと気付く。条件付き給付判決が将来給付の判決である、ではなく、本問の場合は引き換え給付判決ではないという事を。
引き換え給付判決は同時履行の場合のみ
要するに引き換え給付判決は同時履行の場合に使われるものであって、同時履行ではない場合は条件付き判決となる。
条件付き判決の場合に将来給付の場合もある。というのが適切だろう。
参考答案でも言及されているが、条件付き判決自体の深い説明があまりなされていないと思われる(著名な基本書を何冊も読んだことがないので推測ですが)。たまにこういう、まさにマイナーな点をあたかも常識のように題意として出題していたりするが、それはいかがなものだろうか。※問題文には引き換えではなくしっかりと条件と書いてあるのはさすがである。
一部認容と全部棄却判決の既判力とは
Aの全額弁済したという主張は、要するに債務不存在ということになる。この場合債務の上限を示したタイプになる。
債務があることを自認している部分はないので、仮に全部認容であれば全額について債務が存在しないことについての既判力が生じる。※思考実験
本問の場合一部認容(1000万は弁済して消滅)、500万は債務がある。ということに既判力が生じる?
この点出題の趣旨で指摘がある。
「③条件付給付判決と全部棄却判決のそれぞれの既判力の客観的範囲(裁判所が認定した残債務額が既判力の対象になるかどうかという問題点を含む。)を比較検討」
既判力はまず訴訟物から考える
しかし、よくよく考えると、上記の考え方(思考実験)は債務不存在確認の話である。一旦債務が1500万で認容され、既判力がある。ここから1000万弁済して債務が500万残る。ん?(笑)
まず訴訟物から考えよう。本問の訴訟物って一体ナンダ?
「甲土地の所有権に基づき甲土地に係る抵当権の設定の登記の抹消登記手続を求める」
ここで気づく。一部認容ではない(そもそも債務の弁済云々は請求に含まれていない)。※条件付き判決は質的一部認容としても本問の場合は請求に含まれていない。
本問の場合、債務がまだ残っていると主張するのはFになる。そして、Aの請求が全部棄却された場合は債務額については何ら既判力はないのではないか?第一訴訟で認容された債務総額1500万について、その後弁済があったとかなかったとかについては何ら既判力はないと考えられる。
そうすると、条件付き判決の場合、500万の債務を弁済する条件で登記を抹消するという主文(?)になり500万の債務が存在しているという部分には既判力が生じるのか?しかし、そう考えると、そもそも訴訟物にはないものについて既判力が生じることになる。※引き換え給付判決が許されるのでいいということか?
引き換え給付において反対給付については既判力は生じない
引換給付判決において引きか給付部分である反対給付に既判力が生じるか
引換給付判決における「反対給付と引換えに」という部分は,強制執行開始の要件(民執31条1項)を指し示すにすぎないとされ,訴訟物ないし申立事項(民訴246条)ではなく既判力を生じないと一般に考えられている
※要するに既判力は生じない。主文に現れていても(笑)もはやこうなると理論的とは言えないのでは?訴訟物に含まれていないからという理解で良さそう。そうすると条文の文言変えた方がよさそう。いずれにせよ深入り禁物。
この点は置いておき以下の参考答案をみると、
https://bexa.jp/upload/materials/130_8346f0bea2088aa2c092a7dd754b8840.pdf
条件付き判決がそもそもどういう要件で許されるか、という視点から考えると既判力がどうのこうのという前に全部認容を求める原告の訴えと質的に同一とは言えないので許されないと考えることができるようだ。
なるほど、ここで条件付き判決が将来の給付判決なんだぜ、という試験委員の上から目線の意味が分かる(笑)
ただ、ちょっと疑問だったのは「Aとしては全部棄却判決よりも本件判決のほうが自身に有利な判決であるのだから」という部分で、本問の条件付き判決が有利だと必ずしも言えないのではないか。
ここで、出題の趣旨で触れられている既判力の意味が分かる。仮に全部棄却判決の債務の部分に既判力がまったくなければ、再度貸金債務を弁済したとして登記の抹消を請求できるのでは?
この点採点の実感では、「全部棄却判決を受けたとしても,その後に残債務額を弁済した上で改めて抵当権設定登記抹消登記手続を求めることができる」とあり、これが意味するのは残債務が500万という部分にも既判力があるという意味なのか、それとも債務額については既判力がないという意味なのかは分からない。
いずれにせよ、条件付き判決のほうが有利だとは必ずしも言えない(再提訴する必要はないが)のではないか。
本問の条件付き判決は将来給付の判決という観点からも、既判力、あるいは処分権主義という観点からも認められないという結論が一番しっくりくる。
そして、「引き換え給付判決が許されるのはだいたいわかっているはずで」などとドヤ顔で言っていたのが恥ずかしい(笑)。