Contents
改正マップ
99(代理行為の要件及び効果)
100(本人のためにすることを示さない意思表示)
改101(代理行為の瑕か疵し)①代理人→相手方②相手方→代理人
改102(代理人の行為能力) 制限行為能力者が他の制限行為能力者の代理人の場合取消せる追加
103(権限の定めのない代理人の権限)
104(任意代理人による復代理人の選任)
改105(法定代理人による復代理人の選任)旧105条復代理人を選任した場合の代理人の責任削除
改106(復代理人の権限等) 権限の範囲内追加
改107(代理権の濫用) 93但し書類推の明文化及び無権代理化
改108(自己契約及び双方代理等)①無権代理化②利益相反行為導入
改109(代理権授与の表示による表見代理等)判例の明文化
改110(権限外の行為の表見代理) 判例の明文化
111(代理権の消滅事由)
改112(代理権消滅後の表見代理等) 判例の明文化
113(無権代理)
114(無権代理の相手方の催告権)
115(無権代理の相手方の取消権)
116(無権代理行為の追認)
改117(無権代理人の責任) 後記参照
118(単独行為の無権代理)
(無権代理人の責任)
第百十七条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
117条 改正
原則 無権代理人は履行又は損賠の責任を負う
無権代理人が責任を負わないとき
代理権の証明
本人の追認
相手方の悪意 ← 相手方が善意無過失であれば責任を負う
相手方の善意有過失 かつ無権代理人の善意 → 相手方が有過失でも無権代理人が悪意であれば責任を負うことになる
相手方が有過失無権代理人悪意で責任を負う※相手有過失なので悪意より帰責性低い→無権責任負う
無権代理人が悪意でも相手方が悪意なら無権責任負わず
117条のロジック
改正によって立証責任が変わったとされるが、立証責任ではなくロジックが変わったというべきだろう。
旧117 代理権が証明できないor追認を得られない → 無権代理人が責任を負う
新117 代理権の証明をするor追認を得る → 無権代理人が責任を負わない。
旧 証明できない ならば 責任を負う
新 証明できる ならば 責任を負わない
一見同じことを規定しているように見えてそうではない。論理だけで考えると旧のロジックだと証明できたら責任を負わないわけではない。待遇をとると責任を負わないならば証明できたとなる。反対解釈をすれば確かに証明できたら責任を負わないことになるが、それはあくまで反対解釈でしかない。
新のロジックでは証明できなかった場合については何も規定していないが、証明できれば責任を負わないのでそれ以外の場合は責任を負うことが前提としてある。
新117は無権代理人は責任を負う事が前提としてあり、旧117は前提として無権代理人に責任があるかどうかは条文からでは分からない(コンメンタールなどでは原則として無権代理人の責任があるように書いてあるがそれは条文などを解釈した結果、通説というやつである)。代理権を証明できなかったor追認が得られなかったら責任を負うと読むのが論理的整合性がある。
立証責任の転換というミスリード
改正前の条文
「他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは~」
この書き方だと日本語としては立証責任が誰にあるのかは判然としない。改正されて立証責任が転換された、などと言われているがこれはちょっとミスリードを誘うのではないか。そもそも、代理権がないことをどのように証明することができるのか?
「相手方が無権代理人の責任を問うために代理権のないことをみずから証明する必要はない。代理人と称した者が代理権のあったことをみずから証明することができない以上責任を負わねばならない」基本法コンメンタール民法総則P198
https://www.yokohama-roadlaw.com/column/117.html
改正後 相手方が無権代理人だということを立証する責任を負わない
改正前は相手方が無権代理であることを証明する責任があった ?
『改正前の117条1項では、「本人の追認を得ることができなかったとき」に無権代理人の責任を負うという規定でしたので、無権代理人の責任を追及しようとする相手方が、「追認を得ることができなかったことの立証責任を負うかのように解釈するのが自然でした。
しかし、実務では、消極的事実の立証は困難であり、無権代理人が追認を得たことを立証できたときに責任を免れるというように、無権代理人が立証責任を負うものと解されていました。
そこで、今回の民法改正で、実務の運用を明文化することになったものです。」』
無権代理人の責任が生じる要件まとめ
①代理権を証明できなかった
②本人の追認を得たことが証明できなかった
③相手が善意無過失
④制限行為能力者ではない
⑤取消権が行使されていない
無権代理人が責任を負わない場合まとめ
①代理権を証明した
②追認を得た
③相手が悪意 or 無権代理人の善意かつ相手の過失117②2
https://www.yokohama-roadlaw.com/column/117.html
改正前の民法117条2項は、以下の事項に該当するときは、無権代理人は責任を負わない旨を規定していました。
①相手方が、代理権の不存在を知っていた、または過失によって知らなかった場合。
②無権代理人が行為能力を有しない場合。これに対し、改正後の民法117条2項は、無権代理人の責任が発生しない場合を以下のように細分化しました。
①相手方が、代理権の不存在を知っていた場合。
②相手方が、過失によって代理権の不存在を知らなかった場合。
③無権代理人が行為能力の制限を受けていた場合。③については、表現が変わっているものの、内容に変更ありません。
ただし、②の場合を規定する民法117条2項2号ただし書きにおいて、無権代理人が自分に代理権がないことを知っていたときは、相手方が過失によって代理権の不存在を知らなかった場合でも、無権代理人の責任が発生する旨を規定しました。
④制限行為能力者だった
⑤取消権が行使された
①②④⑤については無権代理人の責任が生じる要件とパラレルに考えればよいが、③は改正によって変更点があるので注意が必要
また、④や⑤の立証責任は無権代理人側にあるのか?それとも制限行為能力者ではない、あるいは取消権が行使されていない、という事を相手が立証するのか?
制限行為能力者かどうかは身分証明書や登記されていない事の証明などで分かるな、取消権が行使されていないということも本人に証言させたり証拠があればできないことはないか?
改正
代理行為の瑕疵)
第百一条 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。
http://blog.livedoor.jp/kosekeito/archives/minpou101jou.html
改正前
(代理行為の瑕疵)
第101条
1 意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。
2 特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。
101条が3項に増える
1項は代理人から相手方への場合
2項は相手方から代理人への場合
1項には錯誤が追加
3項は旧2項から本人の指図に従って、という文言がなくなっただけ。
3項は任意代理に適用される。→法定代理だと仮に本人が知っていても代理人について決することになる。要するに原則どおり。
旧105条削除
代理人の詐欺~代理人が詐欺をする~代理人が詐欺を受ける
代理行為の瑕疵まとめ
101① 代理人が欺罔などを受けた場合 本人ではなく代理人の主観で判断する
101② 相手が代理人に対して意思表示して、その効力が悪意有過失で影響を受ける場合(心裡留保など) 本人ではなく代理人の主観で判断する
101①代理人が欺罔を受けた場合なので、代理人が詐欺を行った場合は原則通り 96①
101②では詐欺などが除外されている 相手が第三者より詐欺を受けた場合は原則通り 96②となるので相手からみた相手=代理人が知っているor本人が知っている(101②で詐欺などを除外していることから代理人のみで決するものではない)場合に取消せる
101①は欺罔を受けた場合は本人ではなく代理人の主観としているため、本人が詐欺の事実を事前に知っていても代理人が善意なら取消せることになる。
また、条文上代理人による詐欺が含まれないとされていることから代理人による詐欺は96①が適用される。
いずれにしろ、代理行為の際の詐欺や脅迫、錯誤などの場合は主観的事情を本人ではなく代理人について判断することを明確にする条文となる。
つまり、96①詐欺取消をする場合に善意かどうかは代理人について判断するということである。
101②では詐欺脅迫錯誤が除外されているが、相手が詐欺を行った場合は結局96①で賄えるし、仮に第三者が詐欺を行って相手が意思表示をしたらそれは96②となり、前述の結論となる。
いずれにしろ分かりにくい条文構成であり、また文言も当該事情が分かっている前提での表現なので通常の日本語の解釈では別の解釈もできうるため、そのうち新たな問題が生じるだろう。
とにかく民法の条文構成は欠陥が多い。
(任意代理人による復代理人の選任)
第百四条 委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
(法定代理人による復代理人の選任)
第百五条 法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
(復代理人の権限等)
第百六条 復代理人は、その権限内の行為について、本人を代表する。
2 復代理人は、本人及び第三者に対して、その権限の範囲内において、代理人と同一の権利を有し、義務を負う。
復代理人を選任した代理人の責任についての旧105条は削除 要は一律に責任を軽減したりするのをやめて個別具体的に判断するということのようだ
法定代理人による復代理人の選任についての105条に責任を明確化 やむを得ない事由で選任した場合は選任監督についてのみ責任を負う。
復代理人の「権限」の範囲は、代理人からの授権の内容によって定まる
旧107条が新106条に改正 2項にその権限の範囲内においてを追加
代理権の濫用=心裡留保類推 改正新設
(代理権の濫用)
第百七条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
利益相反行為について追加
(自己契約及び双方代理等)
第百八条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
自己契約双方代理、利益相反行為は無権代理になる
代理権授与表示と権限外の重畳
(代理権授与の表示による表見代理等)
第百九条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
109条と110条の重畳適用されていたものが109条2項に規定された
権限ありと信ずべき正当の理由とは客観的にみて代理権ありと考えるのがもっともだと思われる事情=代理権の不存在について相手方が善意、無過失であること←本人の過失や作為不作為は必要ではない ※正当の理由は相手方が証明する
(代理権消滅後の表見代理等)
第百十二条 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、代理権の消滅の事実を知らなかった第三者に対してその責任を負う。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は、代理権の消滅後に、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において、その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは、第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り、その行為についての責任を負う。
1項は代理権消滅後の代理権の範囲内の行為 相手方が善意無過失であれば責任を負う
2項は権限外の行為で、これまで112条+110条の重畳適用されていたものを明文化
顕名がなくても本人に効果が帰属する問題
過去の短答式問題では顕名がない場合にどうなるのか問題が頻出されている。
なぜか?
まず、
(代理行為の要件及び効果)
第九十九条 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
代理人+代理権内+本人の為にする意思表示 があって本人に直接効力が生ずる。
本人の為にする、という意思表示、いわゆる顕名がない場合は、
(本人のためにすることを示さない意思表示)
第百条 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。
原則、代理人自身と相手方との間に契約が成立することになる。
が、相手方が代理人が本人の為にすることを知っているか、又は知ることができた場合には直接本人に効果が生ずる。
特に問題のなさそうな規定だが、頻出しているということはそれだけ重要か、もしくは誤答が多いからではないだろうか?
実際、過去問の正答率を見ると極端に低いものが多い。合否に影響なしとされるくらい低いものもある。
顕名なきなりすまし事案
代理人が顕名せずに(代理権はある)本人になりすまし、相手方も本人だと過失なく誤信した場合どうなるか?
平成3年39問に同様の問題がある。
条文だけから判断すると本人には直接効果が発生しないこととなりそうであるが、判例は同様の事案で110条を類推して効果が生ずるとしている。
この問題、丸暗記しても短答には対応できるかもしれないが論文だと厳しいだろう。
なぜなら効果が生ずるとしているロジックが110条類推だからである。
110条は権限外の表見代理であり、表見代理は無権代理である。
しかし、この問題、代理権を持っている代理人が代理権の範囲内で代理行為をしている。権限外ではないのに110条を類推しているのは基本代理権があるが、顕名をしていないために有効な代理行為ではなくなり、原則的には本人に直接効果が生じない。しかし、それでは相手方保護に欠けるし、実質的に本人に直接効果を負わせても何ら不都合ではないから、というロジックだろう。
となれば、別に110条類推などしなくても本人になりすました場合は本人のためにするとみなす、としても良かったように思う。勿論こんなことを論文でのたまう必要はないが。
恐らく、こういう問題意識が結構たくさんの人にあるために(要するに判例のロジックが腑に落ちないため)、現場で改めて問われると混乱して間違ったりすることが多いのだろうと思う。
顕名なき意思表示なき事案
昭和57年56問にこんな選択肢がある。
③甲が乙に代理権を与えた事実を丙が知り、又は知ることができたときはその契約の効果は甲丙間に生ずる。
前提として顕名はない。〇だろうか×だろうか?
また、次の選択肢もある。
④甲が乙に代理権を与えた旨を丙に表示していた時はその契約の効果は甲丙間に生ずる。
〇か×か?
③はなんだか目にしたことがあるという印象を受けるはずだ。100条但し書きである。秒殺で〇にしそうだが正答は×である。
100条但し書きをよく見ると、代理権を与えた事実ではなく、「代理人が本人のためにすること」となっている。
要するに代理権のある代理人だと相手方が知っているだけでは代理の効果はそれだけでは発生しないということであり、それは99条①に規定されている。
それをきちんと理解していれば④は秒殺で×となる。
しかし、この問題一筋縄ではいかない。正答率もかなり低いのは他の選択肢も結構いやらしいからである。
①乙が甲のために物品を購入する意思でその契約を締結したときは、その契約の効果は甲丙間に生ずるが、乙が自己のために物品を購入する意思でその契約を締結したときは、その契約の効果は乙丙間に生ずる。
後段は〇だと即答できる人が多いだろう。しかし、短答に弱い人は前段で少々迷うはずだ。とは言え、顕名がない。他に何の条件もないから×と判断。
②乙が自己のために物品を購入する意思でその契約を締結したときは、その契約の効果は乙丙間に生ずるが、乙が甲のために物品を購入する意思でその契約を締結した場合において、丙がそのことを知り、又は知ることができたときは、その契約の効果は甲丙間に生ずる。
前段はいわゆる顕名がない場合で、かつ代理人が自己のために購入する意思なので代理人と相手方に効果が生ずるで問題ない。
後段は代理人が顕名なく、本人のためにする意思で、相手方がそれを知っているか知ることができた場合なので100条但し書きだな、ということで〇になるが、では前述と何が違うのか?
順番的にはこの選択肢が先にくるので③を見た時に短答に弱い人間は混乱すること必至である。
③はあくまで代理権の存在を知っているであり、②は本人のためにする意思である。100条但し書きをきちんと理解し記憶していないとかなり厳しい問題だろう。
まとめ
そもそも99条にしろ100条にしろ、代理権があることが前提になっている。
それよりも重視されているのは顕名、いやむしろ本人のためにする意思があるかどうかである。
いくら有効な代理権があろうとも本人の為にする意思がなければ代理効果が発生しない。
また、本人のためにする意思があっても顕名がなければ代理効果は発生しない。
しかし、顕名がなくても本人のためにする意思があることを相手方が知っているか知ることができた場合は代理効果が発生する。
追記 催告など
相手方からみて
催告権 善悪不問
取消権 善意のみ 過失の有無不問
〇本人に対して追認するかどうかの催告権は相手方が善意か悪意か規定なし。また、本人は追認するかどうかの自由があるからこれに対して何ら回答する義務もなく、放置したとしたら拒絶とみなさられるだけである。
〇相手方には取消権があるが善意の場合のみ。過失の有無について規定がないので過失があってもよい。
無権代理人の責任
相手方悪意 無権代理人責任なし
相手方善意有過失+無権代理人善意 無権代理人責任なし
無権代理人に行為能力の制限がある場合
〇無権であると相手方が知っている場合には無権代理人の責任は発生しない。当然取消権もないことになる。が、本人への追認はできる。
また、無権代理人自信が無権だと知らない場合に無権だということを過失によって知らなかった場合も無権代理人の責任は発生しない。この場合は取消権はある。
追記 即時取得と無権代理
無権代理行為と即時取得の問題もよく出題されている。
本人が追認を拒絶した場合に目的物が取得できない=無権代理人が無権利なのでその場合即時取得できるかなどという設問である。
また、この場合、無権代理人が未成年などの制限行為能力者の場合であり、履行も損賠請求もできないという設定が多い。
一見すると確かに無権利者との取引行為なので即時取得の適用場面のようにも見える。
しかし、即時取得は取引行為自体が有効な取引行為であることが前提である(無権利者なのに有効な取引という言い方は語弊があるが)。要するに取引行為自体が取り消されるとか、無効などの場合にはそもそも即時取得の出番ではないという意味である。
例えば詐欺や脅迫などの場合に取引行為が取り消されたのに即時取得されてしまうのであれば取消の意味がなくなってしまうからである。
従って無権代理行為にも即時取得は適用されない。
代理の要件効果などの条文全体像
要件 権限
(代理行為の要件及び効果)第九十九条
権限内 顕名
(本人のためにすることを示さない意思表示)第百条
顕名がない場合でも相手方が代理意思を知っているか、知ることができた場合は代理効果あり
(代理人の行為能力)第百二条
制限行為能力を理由として代理行為は取り消せない
(権限の定めのない代理人の権限)第百三条
(代理権の消滅事由)第百十一条
代理行為の瑕疵関連
(代理行為の瑕疵かし)第百一条
(代理権の濫用)第百七条
(自己契約及び双方代理等)第百八条
復代理
(任意代理人による復代理人の選任)第百四条
(法定代理人による復代理人の選任)第百五条
(復代理人の権限等)第百六条
無権代理
(無権代理)第百十三条
(無権代理の相手方の催告権)第百十四条
(無権代理の相手方の取消権)第百十五条
(無権代理行為の追認)第百十六条
(無権代理人の責任)第百十七条
(単独行為の無権代理)第百十八条
表見代理
(代理権授与の表示による表見代理等)第百九条
(権限外の行為の表見代理)第百十条
(代理権消滅後の表見代理等)第百十二条
気になる過去問
制限能力を理由とした代理行為の取消は可能か
S38-54 未成年者乙は親権者甲の古書を甲の代理人と偽り丙に売却した。正しいのはどれか。
1 乙は詐術を用いたのであるから売買を取り消すことができない。
2 丙は古書を即時取得する。
3 丙は乙の詐欺を理由に取消すことができる。
4 甲は乙の行為を取り消すことができる。
5 乙は丙への売買を取り消すことができる。
正解は ナシ
改正により制限行為能力を理由とした取消はできないと規定された
親権者は本来未成年者の売買行為を取り消すことができるが、肢4は間違いなので取り消せないことになる。
そもそも、無権代理行為を本人が取り消すことはできない、というか追認しなければいいだけである。
代理人は能力者である必要はないので、制限能力者であることを理由には代理行為は取り消せない。恐らくそういう事を言っているのだろう。
もっとも、代理人の基礎となる委任契約は原則取消すことができるが、そうなると既になされた代理行為が無権代理となってしまうから、このような場合は代理行為に影響は与えないと学説は言うらしい基本法コンメンタール民法総則P181
つまり無権代理行為にしろ有権代理にしろ取消すことができないという解釈で良さそうだ。これはロジックでは答えがでない、いわば法律界の暗黙の了解とも言うべきものである。知っていなければ答えはでない。
未成年者本人も本来は自分が行った法律行為を取り消すことができるが、肢5も間違いとなっているので、代理行為については制限能力を理由とした取消はできないということなのだろう。
即時取得制度と無権代理
肢2は即時取得できるか?という問題である。この点即時取得制度を形式的に適用すると無権利者から動産を善意無過失で取引上取得したなら即時取得しそうである。
しかし、「物権取得の取引行為が、無能力、錯誤、詐欺、強迫、代理権欠缺などの理由により、取り消され、無効となり、効力が生じない場合、即時取得の適用は認められない。…このような場合に即時取得が認められることになれば無能力者の保護、意思の欠缺、無権代理などに関する規定の存在意義がなくなってしまう。」基本法コンメンタール物権法P56
これは条文に規定されているわけではない。確かにロジックとしてはなるほどな、と思わせるが、そもそも無権利者と取引すれば保護されるという即時取得制度の趣旨からすれば無能力だと保護されず、他人の物を勝手に売るような場合は保護される、というのもなんだか変な話である。
要は、即時取得制度を適用しようとする場合に当該行為を無効とする他の規定と競合する場合はその制度を優先適用するという話だろう。
他人の物を勝手に売ろうとする場合はその行為を取り消す、あるいは無効とするような規定がおかれていないから、民法はそのような事態を許容しているということになる。
しかし、詐欺などの場合は取消制度がある。
とは言え96条3項は詐欺取消は善意無過失の第三者には対抗できないと規定する。
AがBを騙してモノを取得して、それをCに売却した。その後Bが当該行為を取り消した。この場合は即時取得の場面ではなくCが善意無過失であれば96条3項によってCは保護される。他方Cに売却する前に取消された後にCに売却された場合はまさに即時取得の事案であり、この場合にも通説の見解では即時取得の適用はないとするのであろうか。そもそもこの場面では詐欺取消が行われた後の取引行為であり、詐欺取消は直接は関係ないので即時取得が適用される。
即時取得を適用しようとする取引行為が詐欺などで取り消される場合には即時取得が適用されないのではなく、そもそも詐欺取消の場合取消される前に取引行為を行っており、この場合はそもそも即時取得の適用の場面ではない。勿論取引行為後に取消された場合に遡及的に無効になるが、だからこそ善意の第三者にはその取消は対抗できないとされている。
詐欺取消前に取引行為をすればその時点では無権利者ではないので即時取得の適用場面ではない、とするのがすっきりした説明となろう。
しかし、そうすると無権代理の場合はどうか?無権代理の場合はそもそも何の権限もない無権利者であり即時取得の適用場面のようにもみえるが、無権代理行為についても即時取得の適用はないとされている。即時取得の適用がないから、相手方は善意無過失であれば占有を取得したからと言って必ず所有権なり物権なりを取得するわけではない。
他人の物を他人の物として売却した場合は他人の物という事を知っているのだから即時取得は適用されないが、他人の物を自分の物として売却すれば即時取得の適用があり、他人の物を代理人として売却しても即時取得の適用はない。
即時取得は要するに処分権限のない無権利者と取引しても平穏公然善意無過失なら保護されるわけで、処分権限がないにも関わらずあると信じた者を保護するものである。
他人の物を他人の物として買い受ける場合でも他人の物を処分する権限があると善意無過失で取引すれば保護していいことになる。
無権代理人の場合も同じで代理権ありと善意無過失で信じれば即時取得を適用してもよさそうである。
しかし、即時取得で所有権を取得する、ということと、契約の内容を履行するということは別の話となる。
他方、他人の物を他人の物として自分に処分権限があるからとして取引行為をした場合は詐欺となる可能性が高い。そもそも処分権限がないのだから無権利者であり、即時取得の適用場面となるが、通説によればこの場合も即時取得の適用はない。詐欺取消が発動されるされないに関わらず、詐欺行為には即時取得が適用されないこととなるが、相手方は詐欺取消ができる。しかし、取り消すのだから所有権は取得できない。
しかし、例えば盗人が盗品を質屋に質入れした場合、処分権限アリと欺罔しているがこの場合でも即時取得は適用される。
詐欺や制限行為能力には即時取得の適用がない、という意味は結局、当該取引行為が詐欺や制限行為能力などで取り消される場合に適用がないと言っている。
要するに当該取引行為が有効でなければならない。https://law-text.com/civil-law/possession-occupation/1797/
ということは取り消されなければ即時取得が適用される、というより、そもそも取り消されていないのだから当該行為は有効であり結果として所有権は移転することになる。
つまり、詐欺などで取り消しを受けるような取引行為は即時取得が適用されないのではなく、詐欺取消のほうが優先されるという表現のほうが適切ということになる。
では、無権代理の場合はどうか。
このロジックだと無権代理の場合は原則無効であり、本人が取消などする必要はない。その意味では無権利者との取引である。
勿論有効な取引行為ではないから、一般的な即時取得の要件の説明に合致するので問題はないが。
そう考えると詐欺は取り消されるまで有効なのでそもそも即時取得の適用場面ではなく、取り消されて遡及的に取消の効果が生じたとしても取引時点では有効だったのでどちらにしても即時取得は適用されないと言える。
また、制限能力者との取引においても追認拒絶されるまでは原則有効な取引行為であり、そもそも即時取得の適用場面ではない。仮に追認拒絶されたとしても取引時点では有効だったのであるから遡って即時取得を適用するということにはならない。
錯誤はどうか?
改正により原則無効から取消可能なものへ変更になっている。とは言え旧法下においての即時取得の一般的な説明では錯誤無効の場合にも即時取得は適用されないとされている。無効から取り消しに改正されたので上記ロジックで言えば取引時には有効なのでいずれにしろ即時取得は適用されない。
旧法下ではそもそも錯誤無効と言いながら本人が無効を主張するまでは相手が無効を主張する事はできないとし、その意味では取消に近い解釈となっているから、結局無効主張するまでは有効な取引行為であるとも考えられ、そうすると取引時においては即時取得の適用場面ではないと言える。
代理権がないにもかかわらず本人が責任を負う場合とは
S44-28
始めから真実に代理権が与えられたことがない場合でも、相手が善意無過失であれば本人が責任を負う事がある。
正解は〇
これはどの条文を根拠にしているのだろうか
109条の代理権授与の表示による表見代理のようである。恐らく、代理権が与えられたことがない場合でも(代理権授与表示をした場合)