横領と背任

横領と背任の違い 区別のやり方

横領が成立すると背任は成立しない 

任務違背は重なりあうのでこれは分水嶺にはならない

横領には不法領得の意思が必要である 背任には必要がない
この点名義云々で区別するのが一般的なようだが分かりにくいことこの上ない
本人のためだとか自分の名義だとか名義のみで判断できるものでもない

かつ

横領にはモノの占有が必要だが背任には不要

従ってモノの占有がなく不法領得の意思がある場合は背任
モノの占有があっても不法領得の意思がなければ背任

しかし、対象の行為に不法領得の意思があるのかないのか判断できなければこのメルクマークは画に描いた餅である 刑法 平成24年 出題の趣旨 採点の実感 

他人の土地を占有 勝手に抵当権設定 
抵当権設定行為に不法領得の意思があるのかどうかで結論が変わってくるということになる
いや、本人の意思はともかくとして、通常当該行為に横領罪で言うところの不法領得の意思を見る事ができるかどうかという問題になる

不法領得の意思という言葉は窃盗罪と横領罪では意味が違う

結論から言えば一口に不法領得の意思が必要などと言う場合、窃盗と横領では少なくとも意味が微妙に違っている

横領罪における不法領得の意思
 横領罪の成立に必要な不法領得の意思とは、他人の物の占有者が委託の任務に背いてその物につき権限がないのに所持者でなければできないような処分をする意思をいうのであつて、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではない(昭和二三年(れ)第一四一二号同二四年三月八日第三小法廷判決集三巻二七六頁以上参照)。

横領罪における不法領得の意思
窃盗罪に関する不法領得の意思は,「権利者を排除して他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを利用し又は処分する意思」13)と定義される。窃盗罪における不法領得の意思の定義の意義は,財物の本来的用法に従って利用・処分する目的での占有侵害と毀棄・隠匿目的での占有侵害とを区別すると同時に,窃盗罪と単なる不可罰な一時使用とを区別するところにある。

これらを比較してみると、横領罪に言う不法領得の意思をもった横領行為は一般的な横領のイメージではない。単に預かったものを廃棄した、などでも横領になり得る。また、権利者を排除する必要がそもそもないため、モノ自体を移動したり処分したりする必要もないから不動産に質権とか抵当権を設定する行為もれっきとした横領行為になりうる

背任の成立には図利加害目的が必要

背任には不法領得の意思自体が必要とされていない
しかし、本人自己若しくは第三者が利益を得る目的であっても背任は成立する場合がある
このとき、不法領得の意思がある場合もあるだろう

しかし、本人自己の利益を図る目的と不法領得の意思は根本的に違う概念である
不法領得の意思というのは要するに権利者のようにふるまう意思であり、必ずしも利益を得ようとしなくてもよい
背任に言う利益を図る目的は文字通り利益を得る目的であり、利益を得ようとしていない場合はいかに権利者のようにふるまっても背任は成立しない事になる
もっとも、加害目的があれば成立する余地はあるが

横領と背任が完全に重なり合う場合

これらの考え方を平成24年の問題に当てはめると、まず抵当権設定行為が利益を得る目的なら背任にもあたるが、そもそも当該抵当権設定行為自体が権利者のように処分しているとも言える
背任が成立するには更に財産上の損害もなければならない
この点、抵当権を設定する事自体が不動産の担保価値を下げるという見方もできるかもしれない
結局考え方によっては横領、背任が完全に重なりあうとすることもできる
結果としては横領が正解なのだろうが、そこに行きつく道程はまず横領ありきではない
結局物の委託占有があるので横領ということになるだろう
たまにまず重い横領の成否から考えて、とあるが、複雑な事例だと余計に混乱するかもしれない

横領背任重なりあい問題の処理の仕方

モノの委託占有関係がなければいずれにしろ横領は成立しないのでモノの委託占有がある場合に限る
言い換えればモノの委託占有関係がある場合は横領と背任が成立する可能性がある

横領と背任のメルクマークがあるのではない※ある基準に該当しても両方に該当する場合がある

当該行為が不法領得の意思の発現なのか図利加害目的があるのか

利益を図る目的がなければ背任にはあたらない可能性がある ※加害目的があれば可能性はある
不法領得の意思があるというだけでは横領の決定打にはならない ※利益を図る目的も併存していれば背任の可能性

不法領得の意思があるから横領である、という答え方は実は正確ではない場合がある

令和2年〔第8問〕(配点:3)
横領の罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているも
のを2個選びなさい。(解答欄は,[№10],[№11]順不同)
1.甲は,乙からの委託に基づき,同人所有の衣類が入った,施錠されていたスーツケース1個
を預かり保管していたところ,衣類を古着屋に売却して自己の遊興費を得ようと考え,勝手に
開錠し,中から衣類を取り出した。この場合,遅くとも衣類を取り出した時点で不法領得の意
思の発現と認められる外部的行為があったといえるから,甲には,横領罪が成立する。
2.甲は,乙と共に一定の目的で積み立てていた現金を1個の金庫の中に入れて共同保管してい
たところ,乙に無断でその現金全てを抜き取り,自己の遊興費に費消した。この場合,甲には,
横領罪が成立する。
3.株式会社の取締役経理部長甲は,同会社の株式の買い占めに対抗するための工作資金として
自ら業務上保管していた会社の現金を第三者に交付した。この場合,甲が,会社の不利益を回
避する意図を有していたとしても,当該現金の交付が会社にとって重大な経済的負担を伴うも
ので,甲が自己の弱みを隠す意図をも有していたなど,専ら会社のためにしたとは認められな
いときは,甲には,業務上横領罪が成立する。
4.甲は,乙から某日までに製茶を買い付けてほしい旨の依頼を受け,その買付資金として現金
を預かっていたところ,その現金を確実に補填するあてがなかったにもかかわらず,後日補填
するつもりで自己の遊興費に費消した。この場合,甲がたまたま補填することができ,約定ど
おりに製茶の買い付けを行ったとしても,甲には,横領罪が成立する。
5.甲は,自己が所有し,その旨登記されている土地を乙に売却し,その代金を受領したにもか
かわらず,乙への移転登記が完了する前に,同土地に自己を債務者とし丙を抵当権者とする抵
当権を設定し,その登記が完了した。この場合,同抵当権が実行されることなく,後日,その
登記が抹消されたとしても,甲には,横領罪が成立する。

正解は1と2
1と3にしてまちがう・・・

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