直接強制と間接強制与える債務と為す債務

行政代執行関連で明渡し義務は与える債務であり直接強制の対象であることを確認しました。明渡と代執行
強制履行についての条文が改正されたので再確認しておきたいと思います。
改正と言っても中身は変わっていないとのことですが、民事執行法が平成15年に改正されていたことを知り、個人的にはかなり気づきがあったので。

(履行の強制)
第四百十四条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、直接強制、代替執行、間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。

強制履行の一般的説明

以前の条文の解釈では直接強制が許されない場合に代替執行ができる、と言われていました。
一般的な強制履行の説明。
強制履行の方法
①直接強制 A
②代替執行 B
③間接強制 C

債務或いは義務の種類
A与える債務 金銭債務 物の引渡し債務

B他人が代わってできる債務  謝罪広告 建物撤去義務 不作為義務
                                  > 為す債務
C他人が代わってできない債務 建物に立ち入らない債務 幼児引渡し債務

直接強制を原則とする

直接強制を原則とし、それができない場合に代替執行又は間接強制がなされる。もっとも、平成15年の民事執行法改正により直接強制が可能な場合でも間接強制ができるようになった。
債務者の人格などを尊重するために直接強制を原則とする、と説明されるがよくよく考えてみると変な話で、Cの債務などは直接強制することがそもそもできない、仮に拷問などで債務を履行させたとしても結局それは間接強制である。

与える債務と為す債務の近似性

代替執行は他人が代わってできる債務であるので、この点与える債務でも似たような側面があるが、代替執行は為す債務であり、与える債務とその性質を異にしている。
建物撤去義務などは与える債務ではない事は明白だが、他人がその債務を行う事ができるかどうかという観点から考えると与える債務の実行は他人でも行える。しかし、その物を所有しているのは本人であり、それを移転できるのは本人しかなしえないとも考えられる。

与える債務と為す債務は何が違うのか?

しかし、与える債務は直接強制が原則であった。現在は間接強制もできるという。代替執行がなぜできないのか?それは為す債務ではないからである。
他人に物を与えるという行為を切り取ると為す債務のようにみえるが、与える債務とは要するに物の所有権が移る事である。現実社会では何らかの行為が必要だが、所有権の移転というのは多分に観念的なものである。
行為自体を債務とする為す債務とは違い、与える債務は行為プラス所有権移転という結果まで必要とすると言ったほうがいいかもしれない。

不作為債務は直接強制できない

H4-35の問題でこういうものがある。

強制履行の方法に関する次の見解を前提とした場合に、下記のアからカまでのうち、文中のAの方法によるものはいくつあるか。
「強制履行の方法としては文中のA,B,Cの三つがある。
Aによることができる場合、Bによることはできない。Bの方が心理的強制が強いからである。
不作為債務についてはCによることはできない。」

今となっては成立しない問題であるが平成14年までだと
A 代替執行
B 間接強制
C 直接強制
Bが間接強制という事はすぐに分かる。
Aについては直接強制でも文としては成立する。直接強制できるときは直接強制を行うのが原則だからである。※改正によって間接強制もできるようになった
不作為債務については代替執行によることはできない、というのは間違いという事だがどうか?
「不作為義務の執行には二つの類型がある
不作為義務違反が有形的に残存している場合にそれを除去する場合→代替執行
不作為義務違反をやめさせる場合→間接強制 」基本法コンメンタール債権総論P51
確かに不作為義務については代替執行と間接強制ができるので、代替執行できない、というのは間違いとなる。

選択肢には以下のものがある
ア 謝罪広告をする債務があるのに広告をしない
  ※旧法では代替執行のみ 現行間接強制も可
イ 通行を妨げてはならない債務があるのに通路カに障害物を置いて妨害している
  ※不作為債務の義務違反であるが、有形物を除去する場合なので代替執行 現行間接強制も可
ウ 小説を執筆する債務があるのに執筆しない
エ 建物を撤去する債務があるのに撤去しない
  ※為す債務なので代替執行 現行間接強制も可
オ 特定の建物に立ち入ってはならない債務があるのに繰り返し入っている
カ 特定動産を引き渡す債務があるのに引き渡さない

要するにこの問題は引っ掛けと言っていい。勿論きちんと理解していれば引っかかることはない。
普通に読んでしまうと直接強制できるときは間接強制できないで問題ない。
しかし不作為債務について代替執行できるかできないか曖昧な知識だとそのままスルーしてしまう、という具合である。
不作為債務は為す債務、ということが理解できていれば代替執行できないとはならない。
一般的な説明である、直接強制できるときは間接強制できない、ということを丸暗記しているとあっさりと引っ掛けられてしまうという。

もっとも改正後は間接強制も可能になっているが。

※追記
直接強制の意味
不作為債務については直接強制できない
実はこれは当たり前の事を言っているだけである。特定の建物に立ち入ってはならないという債務を直接実現できる物理的な方法はないだろう。
つまり第三者ができるかどうかとか、そういう事以前に債務の内容がまず直接的に実現可能かどうかが問題である。
代替執行は第三者でも実行可能な債務だが、債務そのものが行為である場合であり、かつ第三者がその行為が実現可能な場合である。
直接強制は行為そのものが債務の内容ではない点が代替執行と違う点であり、第三者が可能かどうかが区別のメルクマークではない。

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