罪数

法条競合と観念的競合

法条競合

罪名が複数のうちのいずれか一個のみ 択一的と言っていい
1個の構成要件該当事実、1個の法益侵害が惹起 一罪成立
https://cyberlawissues.hatenablog.com/entry/20160912/1473646712
・特別関係
・吸収関係
・補充関係

観念的競合

1個の行為が二個以上の罪名に触れる→ 二罪が成立するが科刑上一罪
最も重い刑 ※牽連犯、併合罪も最も重い刑

1個の行為なのになぜ複数の罪が成立するのか

判例通説は観念的競合は実体法上も数罪成立するという。条解刑法P187
①無免許運転中に速度違反をした場合
②無免許運転中に酒酔い運転をした場合
これらの場合確かに2罪成立することに違和感はない。問題は観念的競合として科刑上一罪にするのか、それとも併合罪にするのかという事である。
この点、諸外国では複数の罪が加算されていくような例もあり、観念的競合などという概念を導入する必要はないのかもしれないが。
判例によれば
①は併合罪
②は観念的競合 だという。
ロジックとしては①は運転行為とその過程におけるもの②は運転者の属性、という切り分け方のようである。条解刑法P188
いずれにしろ分かったようで分からない話である(笑)
車検切れの車を無免許運転しても観念的競合になってしまうのでもはや分けわかめである(笑)

当該行為が1個の社会的行為かどうかを基準にすると

運転をしている と 同時に別の行為をする という事が1個の行為かどうか?という事になる (変な言い回しだが)
無免許で運転をするという事がまず1個の行為で、この時に速度違反をする、というのは無免許運転行為と速度違反という別個の行為とみているのだろう
他方、飲酒はどうか?仮に運転しながら飲酒をしていたら別個の行為と言えるが、飲酒した上で運転をするのであり、行為自体は1個で複数の罪名に触れるという考え方をしているのだろう
しかし、速度違反自体は運転行為そのものであり一個の行為であるとも言える
併合罪と言うためには複数の罪が成立する必要があり、観念的競合と言えるためには1個の行為である必要がある
注意が必要なのは当該行為が1個で併合罪とは言われないが、1個の行為が複数になれば併合処理は出来得る
無免許運転の事例の場合は当該行為者は1個の行為しかしていないので本来併合罪にあたることはないはずであるが、速度違反を併合処理しているためしっくりこない結論となってしまっているのでこれは特殊な事例として割り切ったほうが得策であろう

牽連犯

手段→目的 原因→結果
※否定された事例 保険金詐欺目的の放火と保険金詐欺 牽連犯には主観的なものが要求されず客観的なものであればよい 客観的に放火が詐欺の手段とはならないからだろう。殺人と死体遺棄も仮に死体遺棄が目的で殺人を犯したとしても牽連犯とはならない。
客観的と言うよりも社会的自然科学的にみてと言ったほうが分かりやすいのかもしれない。

加重減軽の順序

72条
①再犯加重
②法律上の減軽
③併合罪の加重
④酌量減軽
これだけでは刑を決めることができない。

刑罰の適用過程

(刑法総論講義案(改訂版)395頁)
法定刑 処断刑 宣告刑
法定刑は条文を見れば分かるが、処断刑とは要するに刑をどうやって決めていくかということになる。
処断刑形成の順序
①科刑上一罪の処理
②刑種の選択
③累犯加重
④法律上の減軽
⑤併合罪の加重
⑥酌量減軽

甲は窃盗の目的でH9/3/31、Aの家に侵入
甲は侵入後、金品を物色していたところ、Aが帰宅したため何も取らずに逃走したが、
Aに追い付かれそうになったので殺すぞと怒号しながらAの顔を殴り、
Aは2週間の打撲傷を負った。

さらに甲はH9/4/4深夜、強姦目的でB女を殴って道端に突き倒し、姦淫しようとしたところ
B女がすっかりおびえているのを見て急にかわいそうになり、そんまま何もしないで帰宅した。

なお、甲には覚せい剤取締法違反の罪で有罪となり懲役10月の刑を言い渡された前科があり、
その刑は4年前に受け終わっていた。

住居侵入
強盗致傷
強姦未遂

①住居侵入と強盗致傷は牽連犯 最も重い罪の強盗致傷 強姦未遂は単純一罪

②強盗致傷は有期懲役を選択 6年以上20年以下
強姦未遂は有期懲役のみ

③前科があるので累犯加重 56 57
長期の2倍
結局両罪とも長期は30年以下

④強盗致傷についてはなし 強姦未遂は中止未遂により減軽 43但 68③長期および短期を2分の1 2年6月以上15年以下

⑤併合加重
45 47 により併合加重
最も重い罪の長期に2分の1を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない。
刑の軽重
第十条 主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
2 同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。
3 二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。

強盗致傷が重いが結局30年以下
下限は最も重いほうの下限なので6年以上

⑥酌量減軽
酌量減軽するとしたら68③により長期および短期を2分の1
3年以上15年以下

⑦宣告刑
処断刑3年以上15年以下の範囲内で被告人を懲役4年にすることも可能

●●罪が成立するという意味

54条で科刑上一罪として規定されているのは観念的競合と牽連犯のみ
従ってこれら以外は科刑上一罪ではない
科刑上一罪は罪数の処理で1番目に行われる
複数の罪名が成立した後に一罪で処理されるのではなく、罪数の処理においては一罪が成立し、複数の罪が成立した上で一罪処理が行われるわけではない
併合処理がその後に行われるが、この時に複数罪が成立したものを併合処理しており、成立した罪と言うようだが、この点を区別せずに使われている場合があり注意が必要だ
牽連犯であっても観念的競合であっても、そもそも複数の罪名に触れている。ここで条文をみると成立しているとはなっていない

包括一罪は罪数処理で何番目なのか?

包括一罪は条文がない
どういうものが包括一罪にあたるかについて議論が錯綜している
詐欺を行った後に返還を免れるために殺人を犯した場合の罪数
仮に包括一罪の前提となる罪が成立しているとすれば包括処理を行うのは併合処理の前段階でなければならない
科刑上一罪では規定されていないので科刑上一罪の後になるが、科刑上一罪のように複数の罪に触れるが成立していないとすると結局一罪が成立していることになり
いずれにしても併合処理の前で処理が行われることには変わりない

罪数処理においての罪が成立するという意味

●●罪が成立するかしないかというのは講学レベルの話ではなく、起訴された上での訴訟上での意味からすれば併合処理の前の段階で成立するかどうかになる事から
結局包括一罪では一罪しか成立していないことになる
そうすると令和4年の刑法第8問肢1は成立して包括一罪という表現なので厳密に言えばまちがいである
もっとも成立という表現が必ずしも訴訟上で成立するかどうかという意味ではないとすればまちがいとも言えない

過去問

複数人に暴行傷害をはたらいた場合なぜ併合罪なのか

刑法-罪数 予備試験平成27年 第12問
「数人共同して二人以上に対しそれぞれ暴行を加え、一部の者に傷害を負わせた場合には、傷害を受けた者の数だけの傷害罪と暴行を受けるにとどまつた者の数だけの暴力行為等処罰に関する法律一条の罪が成立し、以上は併合罪として処断すべきである」
被害法益の主体が複数だからだろうか?
包括罪と併合罪についての司法試験委員会の説明
やはりそのようである

2つの意味での罪の成立まとめ

併合罪になる、という意味は併合処理をされるという事であり、前提として複数の罪が成立しているということである
ここで言う複数の罪が成立しているとは、その罪で有罪になっているということである
科刑上一罪と言っている場合は複数の罪は成立しておらず一罪に過ぎない
科刑上一罪が複数成立して併合処理される、あるいは包括一罪が複数成立したり、科刑上一罪と包括一罪が成立した上で併合処理されることは有り得る
もっとも、科刑上一罪も包括一罪も複数の罪が成立し、という表現が使われているがこの場合に言う成立しというのは罪数処理上の併合処理の前段階の罪が成立しているのとは違い、当該罪名で有罪になるわけではないことに注意が必要である

かすがい現象は何が問題なのか

かすがい現象(カスガイゲンショウ)
かすがい現象とは、刑法学上の罪数理論における概念の一つで、併合罪となるべき数罪について、それぞれの罪がある罪と観念的競合、牽連犯の関係にあることにより、その数罪全部が科刑上一罪として扱われることをいいます。

この概念は判例でも認められているところで、例えば、昭和29年の判例は、住居に侵入して順次3人を殺害したという犯罪について、各殺人罪と住居侵入罪がそれぞれ牽連犯の関係に立つことにより、3つの殺人罪が1つの住居侵入罪によって結びつけられ全体が科刑上一罪となる現象を認めています。

住居侵入を行って殺人を犯す ← 牽連犯 まずこの結論に異議があるが判例がそうなっているので割り切ろう
ここで住居侵入は1個しかない また殺人は3個で本来この部分は併合処理なされる
この時の処理として結果として全部まとめて牽連犯として科刑上一罪としているわけです
本来併合処理されて最も重い罪の1.5倍の刑になるところ住居侵入が加わる事により刑が軽くなってしまう
そもそも前述のように住居侵入と殺人が牽連犯であること自体に疑問がある立場からはそうはならないが、問題の本質の解決にはならない

令和元年第7問

〔第7問〕(配点:3)
罪数に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びな
さい。(解答欄は,[№14],[№15]順不同)
1.甲は,乙を恐喝して乙から財物の交付を受けるとともに財産上の利益を得た。甲には,包括
して1個の恐喝罪が成立する。
2.甲は,乙ら3名をその面前で同時に恐喝して3名全員からそれぞれ財物を出させ,その3名
分の財物の交付を乙から一括して受けた。甲には,3個の恐喝罪が成立し,これらは併合罪と
なる。
3.甲は,乙を恐喝して乙から財物の交付を受け,その恐喝の手段として用いられた暴行により
乙に傷害を負わせた。甲には,恐喝罪と傷害罪が成立し,これらは併合罪となる。
4.甲は,恐喝の手段として乙を監禁し,その間に乙を脅迫して乙から財物の交付を受けた。甲
には,監禁罪と恐喝罪が成立し,これらは併合罪となる。
5.甲は,乙が窃取した財物と知りながら,乙を恐喝してその財物の交付を受けた。甲には,盗
品等無償譲受け罪と恐喝罪が成立し,これらは併合罪となる。https://www.moj.go.jp/content/001293665.pdf

正解は1と4https://www.moj.go.jp/content/001296156.pdf

包括一罪の目安

法益侵害の主体が1個か複数か 複数の場合は包括されない
牽連犯になるか 目的手段原因結果になるなら包括されない
行為ごとに犯罪が成立するか 行為ごとの犯罪を包括して一罪として違和感がないか

肢3 恐喝の手段としての暴行により傷害の結果を生じた場合 恐喝と傷害の観念的競合 最判昭和23.7.29集2.9.1062条解刑法P733
 ※傷害の結果によって強盗になってしまうという事ではないようである 
 ※1個の行為であり手段と目的、原因結果の牽連犯ではない
 ※行為は1個なので併合罪の事案ではない

肢4 ①恐喝の手段として監禁 ②脅迫して財物の交付を受ける
 ※被害法益の主体は1個だが監禁と恐喝が成立しており、監禁と恐喝の2つの行為がある
 ※観念的競合にはならない
 ※恐喝の手段として恐喝と書かれているので牽連犯のように見えるが牽連犯ではないとするのが正解になっている。しかし牽連犯とする判例がある大判明43.10.10録16.1651。平成17.4.14判決で併合になるとしているので実質的に判例変更なのだろう。
 ※監禁と恐喝を包括して一罪とするには違和感が大いにあるので、牽連犯でなければ併合罪ということだろう

平成18 12

〔第12問〕(配点:3)
次のアからオまでの各事例の甲の罪責について,判例の立場に従って( )内から適切な語句を
選んだ場合 その組合せとして正しいものは 後記1から5までのうちどれか 解答欄は ,,。( ,) [ ] №16
ア. 甲は,乙から金員を恐喝しようと企て,乙に暴行を加えて監禁し,暴行により畏怖している
乙を脅迫して金員を交付させた 甲には 監禁罪と恐喝罪が成立し a. 両罪は牽連犯である 。, ,(
・b. 両罪は併合罪である 。)
イ. 甲は,無免許で普通乗用自動車を運転中,前方不注視の過失により歩行者乙に傷害を負わせ
る事故を起こした。甲には,道路交通法の無免許運転の罪と業務上過失傷害罪が成立し (c. ,
両罪は併合罪である・d. 両罪は観念的競合である 。)
ウ. 甲は,乙の住居に放火してその建物を全焼させたが,さらに,隣接する丙の住居にも燃え移
らせてその建物を半焼させた 甲には e. 2個の現住建造物等放火罪が成立し 両罪は併合 。 ,( ,
罪である・f. 1個の現住建造物等放火罪が成立する 。)
エ. 甲は,通り掛かった乙と丙のうちの乙と肩が触れたことから口論になり,憤激のあまり,そ
の腹部を足で蹴った。この様子を見た丙が文句を言ったので,甲は丙にも憤激し,その顔面を
こぶしで殴って傷害を負わせた 甲には 乙に対する暴行罪と丙に対する傷害罪が成立し g 。, ,(
. 両罪は併合罪である・h. 両罪は包括一罪である 。)
オ. 甲は,一緒にいた乙と丙を同時に殺害する目的で,両名に向けて爆弾1個を投げ付けて爆発
させ 両名を死亡させた 甲には 乙に対する殺人罪と丙に対する同罪が成立し i. 両罪は , 。, ,(
観念的競合である・j. 両罪は併合罪である 。)
1. acfhi 2. adfgj 3. bcegi 4. bcfgi
5. bdehj

 

正解4

平成19 14

〔第14問〕(配点:3)
次のアからエまでの各事例の甲の罪責について,判例の立場に従って検討し,それぞれaないし
cから正しいものを選んだ場合 その組合せとして正しいものは 後記1から5までのうちどれか ,,。
(解答欄は ) ,[№18]
ア. 甲は,乙の経営する商店において偽造の1万円札を使用しようと考え,同店において,情を
知らない乙に対し,価格1万円の商品の購入を申し込み,代金として偽造の1万円札を渡して
同商品を得た。
a. 詐欺罪と偽造通貨行使罪が成立し,両罪は観念的競合となる。
b. 詐欺罪が成立し,偽造通貨行使罪は詐欺罪に吸収される。
c. 偽造通貨行使罪が成立し,詐欺罪は偽造通貨行使罪に吸収される。
イ. 甲は,自動車を運転中,前方不注視の過失により,同車を歩行者乙に衝突させ,乙に傷害を
負わせたが,路上に転倒している乙を見て,自己の犯行の発覚を防ぐため乙を殺害しようと考
え,同人を同車両で轢過し,死亡させた。
– 11 –
a. 業務上過失傷害罪と殺人罪が成立し,両罪は併合罪となる。
b. 業務上過失傷害罪と殺人罪との包括一罪となる。
c. 業務上過失致死罪が成立する。
ウ. 甲は,制服の警察官乙から職務質問を受けたが,質問されたことを不愉快に感じ,乙の顔面
を手拳で殴打して傷害を負わせた。
a. 公務執行妨害罪と傷害罪が成立し,両罪は牽連犯になる。
b. 公務執行妨害罪と傷害罪が成立し,両罪は観念的競合になる。
c. 公務執行妨害罪と傷害罪が成立し,両罪は併合罪になる。
エ. 甲は,殺意をもって,女性乙の頸部をひもで絞めながら強姦し,同女を死亡させた。
a. 強姦致死罪と殺人罪が成立し,両罪は観念的競合となる。
b. 強姦致死罪のみが成立する。
c. 強姦罪と殺人罪が成立し,両罪は観念的競合となる。
1. アa イb ウc エa
2. アb イb ウa エc
3. アb イc ウa エb
4. アc イa ウb エa
5. アc イa ウb エc

正解4

平成23 6

〔第6問〕(配点:2)
罪数に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれ
か。(解答欄は,[No.13])
1.甲は,夜間,車道上にロープを張って,車道を閉塞したところ,自動二輪車を運転して同所
を通り掛かった乙がこれに気付かないまま同ロープに引っ掛かり,転倒して負傷した。この場
合,甲に乙が負傷をすることについて故意があれば,甲には往来妨害罪と傷害罪が成立し,両
罪は牽連犯となる。
2.甲は,乙を殺害する目的で乙方に侵入し,屋内にいた乙を殺害した上,たまたま屋内に居合
わせた丙及び丁も殺害した。この場合,甲には,住居侵入罪並びに乙,丙及び丁に対する殺人
罪が成立し,住居侵入罪と乙に対する殺人罪が牽連犯として一罪となり,丙及び丁に対する殺
人罪と併合罪になる。
3.甲は,眼鏡を掛けた乙の顔面を,眼鏡の上から拳で殴打し,眼鏡を損壊するとともに,乙に
全治1週間を要する顔面打撲の傷害を負わせた。この場合,甲には傷害罪と器物損壊罪が成立
し,両罪は併合罪となる。
4.甲は,真実は,自己の経営する会社の運転資金に使う目的で,質権を設定するつもりもない
のに,乙に対して,「2000万円をA銀行の甲名義預金口座に振り込んでほしい。振り込ま
れた2000万円については,見せ金として使用するので,口座から引き出さないし,振込み
後,質権も設定する。」などと嘘を言い,これを信じた乙は,A銀行の甲名義預金口座に20
00万円を振り込んだ。その数日後,甲は,同預金に関するA銀行名義の質権設定承諾書1
通を偽造し,乙に交付した。この場合,甲には詐欺罪,有印私文書偽造及び同行使罪が成立
し,これらは牽連犯として一罪となる。
5.甲は,乙を監禁した上で現金を恐喝しようと企て,乙をマンションの一室に監禁し,暴行・
脅迫を加えて現金を脅し取った。この場合,甲には監禁罪と恐喝罪が成立し,両罪は併合罪と
なる。

正解5

平成24 5

〔第5問〕(配点:3)
教授と学生A及びBは次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の①から⑤までの( )
内に,後記アからケまでの【語句群】から適切な語句を入れた場合,正しいものの組合せは,後記
1から5までのうちどれか。(解答欄は,[№10])
【会 話】
教 授:犯人が被害者の住居に侵入した上で被害者を殺害した場合の住居侵入罪と殺人罪の罪数
関係や,犯人が被害者の住居に侵入した上で被害者のお金を盗んだ場合の住居侵入罪と窃
盗罪の罪数関係は,判例ではどうなるかな。
学生A:(①)です。
教 授:それでは,犯人が被害者の住居に侵入した上で,被害者を殺害し,その後に被害者のお
金を盗もうと思い立って,現実にお金を盗んだ場合の住居侵入罪,殺人罪,窃盗罪の罪数
関係は,判例ではどうなるかな。
学生B:住居侵入罪と殺人罪が(①),住居侵入罪と窃盗罪が(①)となり,全体として(②)
になります。
教 授:そうだね。このような場合をかすがい現象と言っているんだ。
それでは,犯人が路上で被害者を殺害し,その後に被害者のお金を盗もうと思い立ち,
お金を盗んだ場合における殺人罪と窃盗罪の罪数関係は,判例ではどうなるかな。
学生A:(③)です。
教 授:住居侵入罪の法定刑の上限は懲役3年,窃盗罪の法定刑の上限は懲役10年,殺人罪で
有期懲役刑を選択した場合の法定刑の上限は懲役20年だけど,判例の立場によれば,前
科のない犯人が被害者の住居に侵入した上で,被害者を殺害し,その後に被害者のお金を
盗もうと思い立ち,お金を盗んだ事案における処断刑の上限は,それぞれの罪について有
期懲役刑を選択した場合にはどうなるだろう。
学生B:(④)です。
教 授:それでは,判例の立場で,前科のない犯人が路上で被害者を殺害し,その後に被害者の
お金を盗もうと思い立ち,お金を盗んだ事案の処断刑の上限は,それぞれの罪について有
期懲役刑を選択した場合にはどうなるかな。
-5-
学生A:(⑤)です。
【語句群】
ア.併合罪 イ.牽連犯 ウ.観念的競合 エ.科刑上一罪 オ.包括一罪
カ.懲役20年 キ.懲役25年 ク.懲役30年 ケ.懲役40年
1.①イ ②エ ③ア ④カ ⑤ク
2.①イ ②エ ③ア ④カ ⑤ケ
3.①イ ②オ ③イ ④ケ ⑤カ
4.①ウ ②エ ③ア ④ク ⑤キ
5.①ウ ②オ ③イ ④ケ ⑤ク

正解1

平成26 11

〔第11問〕(配点:3)
次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討し,正しいものを2個選びなさい。(解答
欄は,[№21],[№22]順不同)
1.甲は,乙に対し,丙の日本刀を盗んでくれば高値で買ってやると申し向け,乙が盗んできた
日本刀を買い受けた。甲には,窃盗教唆罪及び盗品等有償譲受け罪が成立し,これらは併合罪
となる。
2.甲は,乙が強盗を行うつもりであることを知りながら,乙に模造拳銃1丁を貸し与えたとこ
ろ,乙は,2店のコンビニエンスストアで,同模造拳銃を使ってそれぞれ強盗を行った。甲に
は,2個の強盗幇助罪が成立し,これらは併合罪となる。
3.甲は,乙を殺害する目的で乙が居住する家に侵入し,乙及び偶然その場に居合わせた丙をそ
れぞれ殺害した。甲には,乙に対する住居侵入罪及び殺人罪が成立し,これらは牽連犯となり,
これと丙に対する殺人罪が併合罪となる。
4.甲は,強盗の目的で,路上を連れ立って歩いていた乙及び丙に対し,包丁の刃先を両名の方
に向けながら「お前ら金を出せ。出さないと殺すぞ。」と言って脅迫し,両名からそれぞれ現
金を奪った。甲には,2個の強盗罪が成立し,これらは併合罪となる。
5.甲は,恐喝の手段として乙を監禁し,乙から現金を喝取した。甲には,監禁罪及び恐喝罪が
成立し,これらは併合罪となる。

正解 1と5

平成27 17

〔第17問〕(配点:2)
次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,誤っているものはどれか。(解
答欄は,[№27])
1.甲は,酒に酔った状態で,自動車を無免許で運転した。甲には酒酔い運転の罪と無免許運転
の罪が成立し,これらは観念的競合となる。
2.甲及び乙は,対立する暴走族の構成員を襲撃することを共謀し,同構成員であるX,Y及び
Zに対し,殴る蹴るの暴行を加え,それぞれに傷害を負わせた。甲及び乙にはそれぞれ3個の
傷害罪が成立し,これらは併合罪となる。
3.甲は,乙がX及びYを殺害するつもりでいることを知ったことから,凶器としてナイフ1本
を乙に手渡したところ,乙は,同ナイフを用いてX及びYを殺害した。甲には2個の殺人幇助
の罪が成立し,これらは併合罪となる。
4.甲は,離婚した元妻Xを殺害する目的で,深夜,Xの母親Y宅に侵入し,その場にいたX,
Y及びYの子Zを順次殺害した。甲には1個の住居侵入罪と3個の殺人罪が成立するが,住居
侵入罪と各殺人罪は牽連犯となり,全体が科刑上一罪となる。
5.甲は,身の代金を得る目的でXを拐取し,更にXを監禁し,その間にXの近親者に対して身
の代金を要求した。甲には身の代金目的拐取罪,拐取者身の代金要求罪及び監禁罪が成立し,
身の代金目的拐取罪と拐取者身の代金要求罪は牽連犯となり,これらの各罪と監禁罪は併合罪
となる。

正解3

平成28 7

〔第7問〕(配点:2)
罪数に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合,正しいものはどれ
か。(解答欄は,[№16])
1.甲は,偽造された1万円札を使って価格1万円の商品をだまし取ろうと考え,事情を知らな
い商店の店員Aに対し,同商品の購入を申し込み,代金として同1万円札を渡して,Aから同
商品の交付を受けた。甲には,詐欺罪と偽造通貨行使罪が成立し,これらは観念的競合となる。
2.甲は,Aを監禁するために逮捕し,それに引き続きAを監禁した。甲には,逮捕罪と監禁罪
が成立し,これらは牽連犯となる。
3.甲及び乙は,共同でAの身体に危害を加える目的で,凶器として用いる鉄パイプをそれぞれ
準備して集合し,その後,その目的を遂げるため,鉄パイプで代わる代わるAの身体を殴打し
て傷害を負わせた。甲には,凶器準備集合罪と傷害罪が成立し,これらは牽連犯となる。
4.甲は,Aを監禁してAから金品を喝取しようと考え,Aをビルの一室に閉じ込めて監禁し,
その上で,同室内において,監禁により畏怖していたAに対し,金品の交付を要求しながら脅
迫して畏怖させ,Aから金品を脅し取った。甲には,監禁罪と恐喝罪が成立し,これらは牽連
犯となる。
5.甲は,AがB銀行に預け入れていた預金を不正に払い戻して金銭を得る目的で,Aから,B
銀行が発行したA名義の預金通帳を窃取した上,B銀行の窓口において,行員に対し,Aに成
り済まして,同預金通帳を使って預金を不正に払い戻して金銭を得た。甲には,窃盗罪と詐欺
罪が成立し,これらは併合罪となる。

正解 5

平成28 15

〔第15問〕(配点:2)
学生A,B及びCは,事実の錯誤に関して,次の【会話】のとおり検討している。【会話】中の①か
ら⑪までの( )内から適切な語句を選んだ場合,正しいものの組合せは,後記1から5までのうち
どれか。(解答欄は,[№28])
【会 話】
学生A.Xが甲を狙って殺人の故意で拳銃を発射し,甲にかすり傷を負わせ,さらに,その弾丸
が偶然に乙に命中して乙を死亡させた事例について考えてみよう。私は,同一の構成要件
の範囲内であれば,故意を阻却しないと考え,故意の個数については,①(a.故意の個
数を問題としない・b.故意の個数を問題とし一個の故意を認める)立場を採ります。で
すから,私は,事例の場合,故意犯としては乙に対する殺人既遂罪のみが成立すると考え
ます。
学生B.私は,基本的にはA君と同じ立場ですが,故意の個数について,②(c.故意の個数を
問題としない・d.故意の個数を問題とし一個の故意を認める)立場に立ちます。A君の
考えだと,③(e.意図した・f.意図しない)複数の客体に既遂の結果が発生した場合,
いずれの客体に故意犯を認めるのか不明だからです。
学生C.B君の立場は,④(g.罪刑法定主義・h.責任主義)に反することになりませんか。
私は,この原則を尊重し,⑤(i.客体の錯誤・j.方法の錯誤)の場合には故意を認め
ますが,⑥(k.客体の錯誤・l.方法の錯誤)の場合には故意を認めるべきではないと
思います。ですから,私は,事例の場合,乙に対する殺人既遂罪は成立しないと考えます。
学生A.でも,C君の立場では,方法の錯誤と客体の錯誤との明確な区別が可能であることが前
提となりますね。また,未遂犯や過失犯を処罰する規定の有無によっては,処罰の範囲が
不当に⑦(m.狭まる・n.広がる)ことになると思います。
一方で,B君の立場では,処断刑が不当に重くなりませんか。
学生B.私は,甲に対する罪と乙に対する罪の関係を⑧(o.併合罪・p.観念的競合)と考え
ますので,処断刑はA君の立場による場合と同一となります。
学生A.でも,複数の客体に既遂の結果が発生した場合,⑨(q.意図した・r.意図しない)
客体についての⑩(s.故意犯・t.過失犯)を,刑を⑪(u.重くする・v.軽くする)
方向で量刑上考慮するとなると,やはり問題ではないでしょうか。
1.①b ②c ③f ④g ⑤j ⑥k ⑦m ⑧p ⑨q ⑩s ⑪v
2.①a ②d ③e ④g ⑤j ⑥k ⑦n ⑧o ⑨r ⑩t ⑪v
3.①b ②c ③f ④h ⑤i ⑥l ⑦m ⑧p ⑨r ⑩s ⑪u
4.①a ②d ③e ④h ⑤i ⑥l ⑦n ⑧o ⑨q ⑩s ⑪u
5.①b ②c ③f ④h ⑤i ⑥l ⑦n ⑧p ⑨r ⑩t ⑪u

正解3

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