令和4年 宅建試験民法での失踪問題

今年の宅建試験で失踪について難問が出たとツイッターで見かけました。

【宅建過去問】(令和04年問07)失踪宣告(組合せ問題)
不在者Aが、家庭裁判所から失踪宣告を受けた。Aを単独相続したBは相続財産である甲土地をCに売却(以下この問において「本件売買契約」という。)して登記も移転したが、その後、生存していたAの請求によって当該失踪宣告が取り消された。本件売買契約当時に、Aの生存について、(ア)Bが善意でCが善意、(イ)Bが悪意でCが善意、(ウ)Bが善意でCが悪意、(エ)Bが悪意でCが悪意、の4つの場合があり得るが、これらのうち、民法の規定及び判例によれば、Cが本件売買契約に基づき取得した甲土地の所有権をAに対抗できる場合を全て掲げたものとして正しいものはどれか。
(ア)、(イ)、(ウ)
(ア)、(イ)
(ア)、(ウ)
(ア)

正直迷う。
最初は全部あり得ると思ったが(笑)、選択肢にないことからこれは当事者のうち一方だけでも悪意なら対抗できないのだろうと推測した。

この問題難問という事ではなく批判が多いのも頷ける。
https://www.rakumachi.jp/news/column/300793こちらの記事にありますが、両当事者の善意を要求するとする判例があります。
しかし、この失踪宣告が取り消された場合はさらに現存利益がどうのこうのと話がそれでは終わりません。しかもこの宅建の問題はCがAに対抗できる場合はどれか?ということを問うています。
Aに対抗できてもBに対しては代金の返金の問題がありえます。※32条2項の現存利益の返還とは違うのかはよくわかりませんが。
このあたりは判例なども恐らくなく、また、学説などでもはっきりしていないだろうと思われます。
令和3年予備試験短答民法 失踪
令和3年の予備試験で似たような肢がでています。

ウ.失踪宣告を受けて死亡したものとみなされたAから甲土地を相続したBが,Cに甲土地を売却した後に,Aの失踪宣告が取り消された。この場合において,CがAの生存につき善意であったときは,Bがこれにつき悪意であったとしても,その取消しは,BC間の売買契約による甲土地の所有権の移転に影響を及ぼさない。

判例を知っていれば契約が有効であるためには双方善意が必要なのですぐにこの肢は×だと分かるでしょう。
しかし、宅建の問題は契約が有効と言わずに対抗を問題にしています。屁理屈を言えば契約は無効でも第三者であるCが善意ならもしかして対抗はできるかも?などと考える人もいるかもしれません。
また、仮に契約が有効だとしても取得した財産の現存利益返還義務があります。これは善意で取得しても現存利益があれば返還する義務がある点に注意が必要です。
Cの土地の所有権が対抗できるとしても現存利益があれば返還しなければなりませんが、これって変な話ですよね。もしも土地を所有している事自体が現存利益ならそれを返還すればいいわけですが、この場合はお金で返還させるのでしょうか。もっとも、本問のような場合Cは土地の代金を払っていると思われるので現存利益はないものと思われますが。

失踪宣告が取り消された場合まとめ

(失踪の宣告の取消し)
第三十二条 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

失踪宣告が取り消された場合原則

32①
取消前の善意でした行為はそのまま存続する ※相手がいる場合は双方善意

財産的行為の特則

32②
財産を得た者は権利を失う ※現存利益のみ財産を返還する
※2項は善悪を区別していないので財産的行為は善悪関係なく失踪宣告の取り消しによって権利を失うとも考えられるが、通説は悪意者には適用されず704が適用されるとしている。

まとめ

結局善意でした行為で影響を受けないのは財産的行為以外のものになり
財産を得た者は善意であっても返還する義務があるが、現存利益のみ。従って、仮に悪意であっても返還するのは現存利益のみとなるが学説は悪意の場合は全部返還としているようである。
いずれにしろ、善意で財産を得ても基本的には返還させるのが趣旨のようである。
※契約自体は有効だけど現存利益は返還させるのか。契約自体が無効になるのかは条文からはよくわからない。権利を失うとされているので普通に読めば契約自体もなくなるのだろう。

改めて宅建の問題をみてみる

失踪宣告があって相続開始
Bが土地を単独相続→Cに売却

32②により財産を得た者は権利を失うため、そもそも相続したBは相続しなかったことになるはずである。しかし、土地を既に売却しているため返還できない。
ここで現存利益を売却した金銭とみることもでき、金銭が残っていればこれをAに返還しなければならないとも考えられるが、
本問は土地を購入したCが土地の所有権を対抗できるか?という問題である。
そうすると、失踪宣告の取消しによってBは土地について無権利者であり、無権利者と取引したことになろう。
結局この問題は失踪宣告の問題というよりは土地の対抗要件の問題である。
なぜなら失踪宣告によって財産を得た者はBのみであり、かつ善悪は関係ない。
従って、仮にCが、Aが生きていることを知っている悪意なら保護する必要はない。善意であれば善意の第三者ということで保護に値するだろう。もっとも権利者として保護されるためには登記が必要だとも考えられる。
昔の判例ではCのみならずBにも善意を要求しているようなので短答試験の答えとしては双方善意なのだろう。
とは言え、Cが対抗できるかどうかという論点に相手方Bの善意まで要求する論理構成はどのようになるのか。まさに民法にありがちな現実の利益衡量を優先させて論理はこじつけパターンと言えよう。
従ってこの問題不適切問題ではなかろうか。

失踪宣告取消後の権利変動の問題の所在

判例は双方善意としているという記事ばかりが目につくが、これが法律や判例をミスリードする理由だろう。
そもそも双方善意だと何がどうなるのか?宅建の問題はCがAに対抗できる場合を問うている。判例はそれと同じような事案なのか?

まず失踪宣告の取り消しの効果
原則・・・取消されると身分上、財産上の変動はなかったものとされる(基本法コンメンタール民法総則P85)
例外・・・善意でなされた行為の効力維持
     現存利益の返還(善意の場合)
この説明だと財産的行為も善意でなされると効力は維持のようにみえる。しかし、2項では権利を失うと規定している。
財産的行為は善意でなされれば効力維持で現存利益の返還なのか?
財産的行為は善意でなされても効力は維持されず、現存利益の返還なのか?
この点につき明確に説明しているものはないようだ。通説判例は取引両当事者が善意の場合に限りその行為の有効性を認める(基本法コンメンタール民法総則P85)としているので、身分行為財産行為とも善意でなされれば有効のように思えてしまうがそうではない。
逆に言えば、悪意で行った場合は有効ではないのでこの場合全部返還は言わば当たり前だろう。そのように考えていくとわざわざ2項で善悪を区別せずに権利を失うと規定し、かつ現存利益の返還でいいとしているのは、財産的行為は善悪不問で効力は維持されず、善悪かかわらず現存利益の返還でいいとしていると考えるのが素直である。
これは明らかに条文上の不備だろう。

民法がなぜ難しいのかが見えてくる

民法ではこのように条文を素直に読んで日本人一般が受け取るようなことと判例が違うようなことを言う事が多い。あるいは、人によって受け取り方が違ってもおかしくない書かれ方をした条文が多い。
よって、条文が何を言っているのか、規定していないのか、統一的な見解を別途知る必要がある。それが法律の勉強だと言ってしまえばそれまでだが。
従って条文の素読などと言っても単なる素読をしてもあまり意味がない。

民法の失踪宣告の取り消しが規定していること

原則・・・失踪宣告が取り消されると身分上財産上の変動はなかったものとなる。
例外・・・双方善意で行われた場合は変動したままその効力が維持されるが、財産的行為の場合は財産を返還しなければならない。※このように書いてしまうと財産的行為も善意なら効力維持のように解釈してしまうがそうではない。こういう点も間際らしい。

条文を素直に読むと、2項では善意であっても経済的行為は権利を失い、ただ善意の場合は現存利益の返還でよいと読めるが、この点はっきりと説明したものが見当たらないのが法律の勉強の面白いところで、それは既に常識となっているため説明がないようだ。

https://www.crear-ac.co.jp/shoshi/takuitsu_minpou/minpou_0032-00/
(2) Aが失踪宣告により受け取った生命保険金を費消した際に失踪者の生存について善意であり、かつ、生活費として生命保険金を費消したときは、その分生活費が減少しなかったことになり、現存利益があると解されるので、失踪宣告の取消しにより、Aは費消した生命保険金の相当額の返還義務を負う(大判昭7.10.26)。

この判例を素直に読むと、32条2項は善意であっても経済的な行為は権利を失うということでいいのだろう。取得した財産は返還しなければならないが善意の場合は現存利益でよいということになる。勿論善意などとは一言も書かれていないが悪意には2項が適用されないとするのが通説=常識だからである。そこにあるのはロジックではなく利益衡量だろう。

しかし、ここで素朴な疑問がわく。これがこの問題の隠れた論点と言っていいかもしれない。
双方善意であったとしても現存利益は返還しなければならないのだから権利を対抗できたとしても結局財産は返還することになるのではないか?だとすると対抗できないのと同じ場合がありうると。
また、本来条文で規定しているのは失踪宣告によって直接的に権利を得た者、要するに相続人などで土地を相続で取得したとか。
そういう者であっても善意なら現存利益の返還でいいと言っているに過ぎない。取引の相手についてはなんら規定していない。

宅建の失踪宣告取消後の問題は何が論点なのか

問題はこの相続財産を取引した者が被相続人=失踪宣告を受けた者に対して対抗できるのかと言っている。これについては条文には規定がない。
この点につきリーディングケースとされる判例は要するに相続人も、その相続人と取引した相手方双方とも善意である必要があると言っているにすぎず(判決文がわからないので推測)片方でも悪意なら対抗できませんよと。ただ、この反対解釈からは双方善意なら対抗できることになるが、仮に転得者に現存利益あるとするならそれを少なくとも返還する必要があるという解釈も成り立ちうる。

失踪宣告の取り消しとは直接関係がない

勿論、転得者については32条2項の適用外とすることもできよう。つまりこの問題は結局32条2項の問題というよりは不動産物権の対抗問題と言えるのではないか。

片方でも悪意ならそもそも権利を取得しないのだから、対抗できない場合を解答させる問題は分かりやすく、これまでの司法試験や司法書士試験の類似問題でもそのような問題設定が多いようだ。
しかし、今回の宅建試験では対抗できる場合を問うているのでやはり疑義がでても仕方ないと思える。

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