101条は代理行為で詐欺などが行われた場合の適用要件を判断する基準となる
代理行為の瑕疵については1年程前から既に何回も復習し、ようやく自分なりの理解ができたのでまとめておこう。
司法試験に一発合格するような人は一度勉強すれば少なくともある程度は理解できるのだろう。
私のような凡人、いやバカは2倍、3倍、4倍、5倍勉強してやっと理解することができ、かつ、記憶するにもそれくらい必要だろう。
そう考えると受験回数10回くらいはある意味当然じゃないか(笑)
96条詐欺の条文構造
まず詐欺行為が行われた場合96条の話となるが、この96条1項は詐欺行為が行われた場合に取消すことができると規定している。
条文には主語が書かれていないが、要するに
96条1項の意味
詐欺をされた被害者がその契約行為を取り消すことができる
と規定している。
96条2項の意味
そして96条2項で、
相手方ではない第三者が詐欺行為を行った場合は相手方がそれを知っている(知りうべき)場合にしか取り消せない
と規定している。
従って、
96条1項が規定する詐欺を行った主体
96条1項は結局契約の直接の相手方が詐欺を行った場合
を規定している、ということになる。
これが原則である。
代理行為の際に詐欺行為が行われた場合
では、代理人と契約する場合はどう考えるのか?旧法下では代理人が詐欺を行った場合も101条が適用されていた云々の話があるが、それは置いておき、原理原則で考えると
確かに代理人が詐欺を行った場合はどうなるか?第三者の詐欺に該当するのか?などの疑問が生ずる。96条1項は契約した直接の相手方を規定するとは言っても、代理人の場合は契約の効果は本人に及ぶからである。
そこで、101条が代理行為の場合の詐欺(瑕疵)について規定する。
101条1項の条文構造
101条1項は、代理人が意思表示を行った結果と規定しており、一見すると代理人が詐欺を行ったかのように読めるが、96条1項の規定ぶりから判断すると、
代理人が詐欺や脅迫などを受けて意思表示をした場合の規定である
96条1項が詐欺を受けた側が取り消せる場合を規定し、101条1項も詐欺を受けた代理人について規定している
101条1項の意味
101条1項は要するに
代理行為が行われる際に、代理人が詐欺行為を受けた被害者の場合に騙されたとかいや欺罔されていないとかの判断は代理人について判断する
と規定している。言い換えれば本人が仮に騙されることを知っていたとしてもそれは関係ないということになる。
101条1項は詐欺行為を行った主体については規定していない
更に、101条1項は単に代理人が詐欺被害を受けた場合を規定しているのであって、詐欺を行った者が相手方か第三者かは区別していない。
101条1項が言っている結論
従って、101条1項は
代理行為の際、代理人が詐欺被害を受けた場合、詐欺かどうかは本人ではなく代理人ついて判断する
と規定していることになる。
96条詐欺を適用する場合に代理行為の際は101条を参照する
仮に101条1項のケースで第三者が詐欺を行った場合は96条2項が適用され、騙されたかどうかは101条1項により、代理人について判断するが、96条2項により相手方が詐欺を知っていなければ取り消せないこととなる。
相手方が詐欺を行えば、上記の96条2項が96条1項に変わるだけである。
代理行為の際の詐欺被害者が相手方だった場合
他方、代理行為において詐欺が行われ、相手方が意思表示をした場合、つまり相手方が詐欺の被害者だった場合はどうか。この点につき101条には規定がない。101条2項で詐欺を除外しているからである。
代理人による詐欺の場合判例が排除されたという意味
そうすると、代理行為の場合に詐欺被害者が相手方だった場合は、単純に96条1項及び96条2項が適用されることになる。
従って、代理人自体が詐欺を行った場合は96条1項が適用され、判例が排除されて学説が採用された、という一般的な説明にたどり着く。
第三者が詐欺を行い被害者が相手方の場合
では、代理行為の際に詐欺行為を行った者が第三者であり、かつ被害者が相手方の場合はどうなるか。相手方が取消権を行使する場合である。
96条2項では相手方が知っていなければ取り消せないと規定しているが、この場合の相手方とは代理人なのかそれとも本人なのか?
確かに改正によって代理人が詐欺行為を行った場合は101条の適用が排除されたが、条文からは解決されず、判例によって補われる部分が残っていると思われるが。
詐欺の場合の原理原則
原理原則に戻ると
詐欺被害を受けた場合取消せる
でも第三者が詐欺を行った場合は相手がそれを知っている場合に取消せる
代理行為の場合で、詐欺被害を受けた者が相手方の場合は原理原則が直接適用される
96条2項の趣旨は取り消される側の保護
96条2項の趣旨は契約の相手方を保護する趣旨のものだろう。詐欺を知っているなら保護する必要ない。
契約の効果を享受する本人が知っていれば当然保護する必要はないということになる。では、本人は知らず代理人が知っている場合どうなのか?
取消そうとする主体取り消される主体での区別
101条1項は能動代理、2項は受動代理などという説明がなされるが、規定ぶりをみると必ずしも能動受動で分けられるものでもない。
1項は結局詐欺を受けた場合を規定しているとも捉えられ、その意味では受動代理とも読める。
代理行為の場合に第三者が詐欺を行った場合に、取消権を行使する主体によって区別している、とも読める。
第三者の詐欺行為で被害者が相手方の場合についての規定が明文でない意味
そして、このとき相手方が取消権を行使しようとする場合に代理人が詐欺を知っていると取り消せないのか、本人が知っていると取り消せないのか、それとも両者知っていると取り消せないのか?
という点につきは規定がない。101条1項で代理人が取消権を行使する場合を規定したものの、相手方が取消権を行使する場合は規定しなかった。
相手方が取消権を行使する場合は当然相手方本人が騙されたかどうかなので敢えて規定するまでもない。
しかし、第三者が詐欺を行った場合についても敢えて規定していない。例えば、この場合代理人について判断するという規定もありうるが、そうなると本人は知っているのに代理人が知らないので取り消せないとなり不都合である。
逆に、この場合詐欺の事実は本人について判断するという規定とする、本人は知らないので取り消せないが、代理人が知っていた場合、やはり常識的に考えてどうなんだ?となる。
そのように考えると、代理人ではなく第三者が詐欺を行って、相手方が詐欺被害を受けた場合に取消しができるのは代理人、本人のどちらかでも知っていれば取消せる、としたほうが合理的だろう。少なくとも両者とも知っていなければ取り消せないとするのは保護しすぎという事に落ち着く。
しかし、合理的解釈で判断できるから敢えて規定しないとしたとしても、法律の解釈などいかようにもなるため、わざわざ改正までして判例を排除するなら、一緒に規定してもいい話である。敢えて規定しないのはその解釈に幅を持たせて柔軟に対応させようとということなのかもしれないが、このような規定ぶりが実は単純な話にも関わらず、条文だけ読んでも様々に解釈可能となり、複雑怪奇なものになっていくのではないか?
短答過去問
ウ 本人が詐欺 被害者相手 代理人不知 相手は取消せるか
司法試験年度別体系別択一過去問 民法〈2006年版〉P540の解説によれば、要するに代理人には保護される利益がないから相手方は取消せる、となっている。
これは、本人が第三者である事を前提とするものである。
本人を第三者とみなければ96条1項が適用となるだろう。しかし、仮に本人を第三者と考えても96条2項に言う相手方とは本人なのか代理人なのかは規定がない。代理人に保護する利益がないから代理人が詐欺を知っていなくても取り消せるのではなく、結局本人に契約の効果が享受されるため詐欺した本人を保護する利益がないと考えるのが適切だろう。代理人に保護する利益がないのなら、仮に本人ではなく第三者が詐欺を行った場合でも代理人には保護する利益がないから代理人は知らなくても取り消せるとなる。
この場合本人が詐欺を知らなくても取り消せるとなってしまいかねない。
そうすると、本人が詐欺を行う場合は端的に第三者の詐欺とはならないとしたほうが合理的だろう。
エ 代理人が詐欺 被害者相手 取り消すには本人が知っている必要があるか?
改正によってこの場合は96条1項が直接適用になる。しかし、屁理屈を言えば代理人を第三者と考える事も可能である。そう考えると96条2項が適用される。しかしそうだとしても結局96条2項に言う相手方を本人、代理人いずれと捉える事も可能で、より合理的なのは一方でも知っていれば取消せるとしたほうがよい。
そうすると、代理人が第三者であろうが直接の相手方であろうが、いずれにしても取消せることになる。
ちなみに上記解説に司法試験年度別体系別択一過去問 民法〈2006年版〉P540よれば、
「代理人行為説をとると、本人は第三者とも考えられるが、そのような者を代理人に選んだ本人がそのリスクを負うべきであるから、本人がそのことを知らなくとも相手方はその意思表示を取り消すことができる」とある。
しかし、この説明だと本人が第三者としつつ、96条2項が適用されるとしている事を前提としているが、96条2項は第三者が詐欺を行った場合である。
本問は代理人が詐欺を行っており、本人が第三者とする考え方では96条2項は適用されないのではないか。
本人と代理人が別人格であり、本人が第三者なら、代理人も本人から見たら第三者であるから、第三者による詐欺96条2項が適用とする考え方もとれる。これが解説の考え方の前提にあると思われるが、96条2項を適用する場合は相手方が知っていなければ取り消せない。解説では本人が知らなくても取り消せるとあり、これは結局96条2項に言う相手方が本人であることを前提としていることになる。
そうなると代理人行為説をとった肢ウとの整合性がとれない。いずれにしても法務省の正解は肢ウが〇で肢エが×のようなので理由は別として答えとしては合っているわけで、結局のところ本人、代理人どちらかが知っていれば取消せることに落ち着くことになる。
注意を要するのは理由である。短答の肢の場合に当然結論は合っていなければならないが理由、根拠が書かれている場合これも正解しなければならないことは言うまでもない。
しかし、判例はともかくとして、ある説やその説からの帰結だったりする場合はやっかいである。仮に解説にあるような理由が肢に書かれている場合、果たしてそれは正解と言いうるのか?
そこで、問題の問い方として明らかに間違いであるとか、最も適切な組み合わせなどの保険をかけているのだろう。
オ 本人善意無過失 代理人悪意 本人は即時取得できるか
司法試験年度別体系別択一過去問 民法〈2006年版〉P540によればS47.11.21により、旧101①を類推適用して本人は即時取得できないと考えることができるとある。
改正によってこれは類推ではなくなるのか?そもそも旧法下ではなぜ類推なのか?
そもそもだが、類推ではなく101条1項が直接適用されるのではないだろうか。
改正後の101条1項は「代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする」となっており、代理人が詐欺を行った場合などを排除するものであって、代理人が何らかの意思表示を行った効力に影響がある事項については代理人について判断すると言う基本的な考え方は変わっていない。
従って、改正後も端的に代理人について善悪を判断するということでいいはずだ。
しかし、これを貫くと本人が悪意でも代理人が善意であれば即時取得し得るということになる。