Contents
平成20年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑事訴訟法)
自己の体験した事実や被告人との会話内容が記載されたノートにつき,要証事実との関係での証拠能力を問うことにより,要証事実の分析を前提として,適用可能性のある伝聞例外規定に係る要件等の法解釈
警察官が捜索差押許可状の呈示に先立って捜索場所に入室した際の措置の適否と令状呈示の時期の適否
本件ノートが刑事訴訟法(以下「法」という。)第321条第1項第3号の書面に該当するのか,それとも法第323条第3号の書面に該当するのか
「特に信用すべき情況」に関する法解釈がなされていない
要証事実を前提にすることなく本件ノートについての伝聞法則の適用の有無を検討している答案も散見された
法適用に関しては,事例に含まれている供述に付随する外部的な情況にかかわる具体的事実を抽出・分析することが肝要
第321条第1項の「供述書」にも供述者の署名押印が必要であるとする答案が散見された まじっすか(笑)供述書は供述者自ら作成した書面であり筆跡等でわかるため必ずしも署名押印は必要ではない(最決昭29・11・25集8-11-1888)刑事訴訟法講義案P277
出題趣旨採点実感より出題趣旨をみたほうがためになるようだ
問題
自己の知覚・記憶した事柄を記載したもので,その記載内容の真実
性がかかわる要証事実との関係で「伝聞証拠」以外の何物でもない本件ノートを「非伝聞」
とする不可解な答案があった
という気になる採点実感があった。
伝聞証拠まとめ
伝聞証拠
現場検証などでの指示説明
ノート、日記、手帳は321①3号文書か323条3号文書か
特信情況の判断と違い
再伝聞
平成21年 出題趣旨
適法に発付された捜索差押許可状に基づいて捜索した際に行われた様々な写真撮影について,その適法性を論じさせる
捜索差押えという強制処分の過程における写真撮影の法的性質についての考え方,ひいては令状主義及び刑事訴訟法第218条第1項の定める捜索,差押え及び検証についての正確な理解と具体的事実への適用能力
写真撮影の適法性については,当該写真撮影が捜索差押えに付随する処分として許される場合があるとの見解や捜索差押えの意義・内容からその本来的効力として写真撮影が許されるとする見解などがあり得る
被疑者甲による犯行再現実験の結果を記録した実況見分調書について,その要証事実との関係での証拠能力を問う
※再現者が被告人である場合には同法第322条第1項所定の要件をも満たす必要があるとされている
採点実感
憲法第35条の
保障が及ぶ屋内を捜索する際に行われた対象者の意に反する様々な写真撮影について
その適法性を問うているにもかかわらず,これを単に任意捜査として許されるか否か
という観点からのみ論じている答案や,各写真撮影を刑事訴訟法第111条にいう「必
要な処分」として当然のように許されるとのみ論じている答案
実況見分調書と伝聞
設問2について本件では正に検察官が設定した立証趣旨が意味を持つ場合である
最高裁判所の判例の見解が前提としていた事案とは
異なるにもかかわらず,刑事訴訟法第321条第3項所定の要件を満たすだけでなく,
同法第322条第1項所定の要件をも満たす必要があるとした答案が多数あった
平成21年問題
最高裁判所の判例の見解が前提としていた事案とはどの事案か。
最決2平成17年9月27日刑集59-7-753だと思われる。試験委員はこの事案と本問が明確に違うと言っている。
どこがどう違うのか。
判例では、「実質において再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実なるものとされた」刑事訴訟法判例百選P652らしいので、本問ではそうではないということだろう。
※判例では「立証趣旨が「被害再現状況」,「犯行再現状況」とされていても,実質においては,再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される」とあるので、本問は検察官立証趣旨そのものなので事案が違うということだろう。また、この場合「刑訴法326条の同意が得られない場合には,同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより,再現者の供述の録取部分及び写真については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の,被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。」としている。
検察官が設定した立証趣旨をそのまま前提にするとおよそ証拠としては無意味になるような例外的な場合などではなく,甲が供述しているような犯行態様が現場の客観的な環境との関係で物理的に可能であるか否かが正に問題になる事案であるとの理解が可能である
と、採点実感にあるので、立証趣旨が当該実況見分調書の証拠価値と言えるかどうかが一つの判断基準のようである。
しかし、いずれにしても立証趣旨そのものを検察官の言葉だけから判断するのではなく総合的に判断しているようなので、(「証拠の標目欄に掲げており、~ 被害者や被疑者の供述内
容を明確にすることを主たる目的にして,これらの者に被害・犯行状況について再
現させた結果を記録したものと認められ,~これらを有罪認定の証拠にしたと認められる。」)立証趣旨だけからは判断できないものと思われる。
もっとも問題文からはそこまで判断できないと思われるので、結局そのような点を指摘していれば仮に立証趣旨の判断を間違えたとしても問題はなさそうだ。
捜索における写真撮影
写真撮影は検証である
写真撮影は本来検証なので強制処分として写真撮影を行うには令状が必要 実例捜索・差押えの実際 P42
写真撮影が許される理由
①捜索の適法性担保の為の執行状況の撮影
②証拠価値の保存のための撮影
は捜索差押手続きに付随して合理的な目的により相当な方法程度において行われる限り捜索差押に付随する処分として許される。 徳島地判平10.9.11判時1700.113
押収対象物件以外の写真撮影
「捜索場所をくまなく撮影したり、許可状にきさいされていない物件やその内容を撮影することは、写真撮影が被写体の形状・内容とともに、捜索差押を受ける者に対するプライバシー侵害の状態を反映俗的に残すということにより、捜索差押を受ける側の不利益を著しく増大せしめ、また、許可状に記載されていない物件、すなわち、捜索差押の目的物とされていない物件をも捜索差押したのと実質的に異ならない結果をもたらすこととなり、令状主義の精神に反するおそれもある」名古屋地決昭54.3.30判タ389・157
出題趣旨から押収対象物件以外の写真撮影が許されるロジックを検討する
,写真撮影の対象が本件捜索差押許可状の差押対象物,すなわち令状の本来的効力の対象である「本件に関連する保険証書,借用証書,預金通帳,金銭出納帳,手帳,メモ,ノート」に該当するか否かを
まず検討し,
当該写真撮影が証拠物の証拠価値を保存するためなどに必要であるか否かを検討してその適法性を論ずる
写真①については,白壁に書かれ
た記載の意味について甲の供述調書の記載から,本件との関連性を認定し,差押対象物である
「本件に関連するメモ」として,白壁の一部を破壊し取り外して差し押さえるよりも写真撮影
にとどめる方が処分を受ける者にとって不利益がより小さいため適法であるなどとの分析が可
能
写真②及び③については,通帳はいずれもA名義であるが,乙名義のパスポート
やA名義の印鑑などと同じ引き出し内に入っていたことから乙が実質的に管理・使用していた
通帳であることを論じたり,X銀行の通帳にある「→T.K」との鉛筆での書き込みの意味を
検討し,通帳が発見された時点からその書き込みがあったことを明らかにする必要性を論じる
写真④については,撮影されたパスポート,名刺等は令状記
載の差押対象物ではないが,乙による通帳の管理・使用すなわち,引き出し内にあった預金通
帳が本件に関連する通帳に該当する点を明らかにするため,同じ引き出し内にあったパスポー
ト等の乙の名義部分だけを写真撮影するという行為が,差押手続の適法性担保の観点から許さ
れないか等を論じる
個々の適法又は違法の結論はともかく,具体的事実を事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではなく,それぞれの事実が持つ法的な意味を的確に分析して論じなければならない
平成22年出題趣旨
試験問題
アパート前公道上のごみ集積所に投棄したごみ袋や,自宅マンションのごみ集積所に投棄したごみ袋から発見したメモ片を持ち帰り復元する行為
差し押さえた携帯電話の消去されていたデータを復元・分析する行為の適法性を論じさせることにより,刑事訴訟法第221条の定める遺留物の領置,同法第218条第1項の定める捜索,差押え及び検証についての正確な理解と具体的事実への適用能力を試す
本問のごみが遺留物といえるか,いえるとして捜査機関は何らの制限なくこれを領置することができるか問題
消去されたデータの復元・分析が捜索差押許可状の効力として許されるか,それとも新たな権利侵害に該当し別個の令状を必要とするか問題となる
遺留物がなぜ令状なくして取得可能
なのかという制度の趣旨に立ち返り,占有取得の過程に強制の要素が認められないからこそ令
状を要しないとされている遺留物とは,遺失物より広い概念であり,自己の意思によらず占有
を喪失した場合に限られず,自己の意思によって占有を放棄し,離脱させた物も含むなどと定
義した上で,
101条領置 制度趣旨
犯人その他の者が遺留した者は事件と関連を有する場合が多く、しかも捜査の初期においてはそれを確定的に判断することが困難であり差押えをなしえない 条解刑事訴訟法P210
投棄されたごみが遺留物に該当するか否かをまず検討
当該ごみが遺留物に該当するとしても,排出者がごみを排出する場合における「通常,そのまま収集されて他人にその内容を見られることはないという期待」がプライバシー権として権利性を有するか否かを検討
同権利性が認められるとしても,本件事例においてなお要保護性が認められるか否かを論ずるべき
具体的状況下におけるごみの領置の必要性及び相当性を検討してその適法性を論ずる
個々の適法又は違法の結論はともかく
ごみの領置についての判例
最決二平成20年4月15日刑集 第62巻5号1398頁
被告人及びその妻は,これらを入れ
たごみ袋を不要物として公道上のごみ集積所に排出し,その占有を放棄していたも
のであって,排出されたごみについては,通常,そのまま収集されて他人にその内
容が見られることはないという期待があるとしても,捜査の必要がある場合には,
刑訴法221条により,これを遺留物として領置することができるというべきであ
る。また,市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているから
といっても,それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから,これを遺留物と
して領置することが妨げられるものではない。
通常の捜
査方法では摘発が困難であったという捜査の必要性に加えて,ごみ袋が投棄されたのがだれも
が通行する場所であったという具体的状況や,他者が拾うことも予想される公道上のごみ集積
所から,甲がごみ袋を置いたのを現認した上で,同ごみ袋を持ち帰ったという手段の相当性を
検討するべき
ごみ集積所がマンション敷地内にあるが,管理者
の同意なしに敷地内に立ち入る行為の法的意味をどのように評価すべきか,その際,そこは居
住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,その出入口は施錠されておらず,だれで
も出入りすることが可能であったという事実をどのように評価するか,その場所に投棄された
ごみの遺留物性及びプライバシー権の要保護性の有無を,捜査①との違いを意識しながら検討
して論じる
録音内容の捜査報告書
設問2
会話を録音したICレコーダーや携帯電話を再生して反訳した捜査報告書について,その要証事実との関係での証拠能力を問うことにより,伝聞法則の正確な理解と具体的な事実への適用能力を試す
おとり捜査や秘密録音といった捜査手法がとられていることから,それらの適法性が捜査報告書の証拠能力に影響し得る
おとり捜査の意義を定義し,おとり捜査一般の問題の所在や適法性の判断基準を示した上で,いわゆる機会提供型か犯意誘発型かというだけではなく,本件で当該捜査手法をとるべき必要性・補充性や働きかけ行為の相当性を考慮し,設問で与えられた具体的事実を踏まえて,本件における乙を通じての被疑者甲へのけん銃譲渡の働きかけが適法であるか否か詳細に検討する必要がある
会話当事者の一方が録音に同意している場合には,その会話内容は相手方の支配下に置かれたものであり,会話の秘密性は
放棄したものと評価され,要保護性は,通信傍受のような会話当事者のいずれの同意もない場合に比べて低下しており,任意捜査としてその適法性を判断するなど
これら前提となる捜査の適法性を論じた後,捜査報告書の証拠能力を検討する
,本件捜査報告書には,甲乙間及び甲丙女間の会話部分並びに乙によるその会話内容の説明部分が含まれていることから,これらの部分の証拠能力について,更に伝聞法則の適用があるか否かを要証事実との関係で検討する必要がある
消去されたデータの復元とは,消去によって可
視性がなくなったデータを可視性がある状態にするものであり,元々のデータを破壊,改変等
するものではないといった具体的事実の分析をし,その上で,令状裁判官の審査を経た当初の
携帯電話に対する捜索差押許可状がどこまでの効力を持つものかという観点から論ずるべき
会話内容が真実かどうかを立証するものではなく,甲乙間及び甲丙女間でそのような内容の会話がなされたこと自体を証明することに意味があり,会話の存在を立証するものであるから,この会話部分は伝聞証拠には該当しないとの理解が可能
犯罪内容そのものが要証事実だとしても、伝聞かどうかはその会話の内容を立証するかどうか
これに対して,乙による説明部分については,正に乙が知覚・記憶し,説明した会話の内容たる事実が要証事実となり,その真実性を証明しようとするものであるから,伝聞証拠に該当すると解した上で,伝聞例外を定める刑事訴訟法第321条第1項第3号によりその証拠能力の有無を検討することになる
証拠としてどうか?捜査方法としてどうか?
録音写真は供述証拠か非供述証拠か を問う前に採取方法が問題となる。
要するに捜査方法として適正かという問題と証拠として要証事実との関係でどうなのかという問題の2つに分けて考えねばならない
写真は非供述証拠 ※供述を補充する写真はその書面と同一の証拠能力を有する(321条③又は④)刑事訴訟法講義案P305
犯行の情況等を撮影したいわゆる現場写真は非供述証拠である。必ずしも撮影者に作成過程や関連性を証言させることを要しない。最決昭59.12.21集38-12-3071
写真と録音の証拠能力、伝聞
証拠物を写した写真:現物の証拠能力と同一に考えて良い
供述書面を写した写真:供述内容を証拠とする限り伝聞法則に服する
現場の雰囲気の録音:情況写真が視覚でとらえたのに対し聴覚でとあれたという違いはあるが非供述証拠
被疑者や参考人の供述録音:調書の代わりに録音テープになったものであり供述証拠となり伝聞法則が適用される※詳述者の署名押印がないが原供述と録音の一致は録音の科学的正確さによって保障されていると考えることができる。被告人の供述録音322条、被告人以外の検察官面前供述録音321①2警察職員又は私人の面前供述録音は3号に準じる。
もっとも、本問では録音そのものではなくそれを反訳したものとなっている。従って書面による場合と考えて良いが、録音は五感による検証と同じであるから検証の結果を記載した書面に類似した書面として,刑事訴訟法第321条第3項による。いずれにしろその採取方法が適正かどうかが問題となっている。
秘密録音が違法とされる場合とは:一方当事者の同意あり
盗聴の場合とは異なり、対話者は相手方に対する関係では自己の供述を聞かれることを認めているのであって、その証拠としての許容性を一律に否定すべきではなく、録音の目的、対象、方法などの諸事情を総合し、その手続きに重大な違法があるか否かを考慮して決定する
考慮する事項
〇犯罪に関した公共の利害にかかわる事実
〇ことさら相手方を陥れたり、誘導などにより虚偽の供述を引き出そうとするなどの不当な目的ではない
〇録音の場所、方法も社会通念上格別の非難をされるものではない
松江地判昭57.2.2判時1051-162 P136
新聞記者が取材目的で電話での会話を相手に無断で録音した事案について違法ではない最判昭56.11.20集35-8-797
逆探知:当事者の同意がない場合は検証によって行う。無令状で許されるのは受信者の同意に加えて、正当防衛、緊急避難に該当するような場合。実例中心捜査法解説 P141
おとり捜査の違法性
犯意誘発型と機会提供型いずれであるかにかかわらず、おとり自身が犯罪の教唆犯として処罰されることはあってもおとり捜査を理由として実体法上公訴提起が違法とされることはない。最決昭28.3.5集7-3-482
最高裁判所判例集他人の誘惑
により犯意を生じ又はこれを強化された者が犯罪を実行した場合に、わが刑事法上
その誘惑者が場合によつては麻薬取締法五三条のごとき規定の有無にかかわらず教
唆犯又は従犯として責を負うことのあるのは格別、その他人である誘惑者が一私人
でなく、捜査機関であるとの一事を以てその犯罪実行者の犯罪構成要件該当性又は
責任性若しくは違法性を阻却し又は公訴提起の手続規定に違反し若しくは公訴権を
消滅せしめるものとすることのできないこと多言を要しない
もっとも、上記判例は機会提供型である。下級審では犯意誘発型は違法とされる場合があるとして、犯意を新たに生じさせたものかどうかを厳密に吟味する傾向がある。実例中心捜査法解説P131
機会提供型のおとり捜査が許容される場合とは
①直接の被害者がいない薬物犯罪などの捜査※左以外の場合でも許容されることがあり得る
②通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である 最決平16.7.12判時1869-133
昭28年決定は無条件でおとり捜査が許されるようにも読めるが、機会提供型であっても一定の条件下によって許容されていることが分かるから、当然犯意誘発型においても一定の条件があるはずである。
任意捜査としておとり捜査が許容される判断基準
おとり捜査は任意捜査であるから、一般的な任意捜査の枠組みで考えるとすれば、
おとり捜査の必要性(犯罪の重大性、嫌疑の濃淡)
緊急性(他にとりうる手段の有無)
働きかけの手段の相当性
おとり捜査による弊害の有無、程度(働きかけを受けたものの犯罪性癖の有無、程度)
などを総合考慮するべき。実例中心捜査法解説P132