平成21年採点実感、出題の趣旨から会社法を勉強しよう

出題の趣旨
設問4
合併契約の締結や当該合併契約の承認を目的とする株主総会の招集を阻止するための手段となる会社法上の株主の権利について問うもの

最も有効な権利として考えられるものは,株主による取締役の行為の差止め(会社法第360条)
同条第1項に規定する「法令」の意義
善管注意義務や忠実義務(同法第330条,民法第644条,会社法第355条 )独禁法などの公益を守るための法令も含まれるのか
善管注意義務ないし忠実義務について
 基本合意違反による損害賠償債務の発生と合併によってもたらされるX社の利益との比較
 合併比率の不公正という問題がX社自身にどのような損害をもたらし得るのか等の分析を行う

会社法第360条第3項に規定する「回復することのできない損害」がX社に生ずるおそれの有無

設問5
株主総会における議決権行使書面による議決権行使や委任状に基づく議決権の代理行使をめぐる法律問題
議決権行使書面による議決権行使の場合,書面に記載されたとおりの議決権行使がされたものとして取り扱われるが(会社法第311条第1項,第2項) ,
委任状に基づく議決権の代 理行使は,代理人による投票をもって議決権行使として取り扱われる
両制度の趣旨・意義,法的構造の違い等についての基本認識が問われている


賛否の記載のない議決権行使書面について各議案につき賛成又は反対とみなす旨を記載することであるが,これは会社法施行規則第66条第1項第2号により認められており,その有効性を肯定した下級審裁判例も存在する
委任状については,そもそも白紙委任が認められるのか,また,代理人が委任状の指示に反したときに代理人による議決権行使の効果はそのまま認められるのか

本問の事例は,かつての多くの例とは異なり,会社経営陣に反対する株主側が委任状を勧誘したという最近の事例を踏まえたもの


議決権行使書面と委任状により矛盾する内容の権利の行使を株主が行った場合の効力
考え方としては,議決権行使書面の送付と委任状の交付の時点を比較して後のものを優先する考え方,代理人による議決権行使を本人による議決権行使と同視して優先する考え方,矛盾した議決権行使としていずれも無効とする考え方等があり得る

設問6
合併の実現を阻止するための手段としての会社法上の権利(設問4で解答した手段を除く )
合併の効力発生の前
合併を承認した株主総会の決議について,取消しの訴えや無効確認の訴えを提起するとともに,それらを本案とする仮処分命令の申立てを行う
そのような決議の効力を争う根拠として,
設問5における自らの解答を前提として特別決議が成立しているかどうか,
議長不信任動議や投票数の算入方法に関する抗議を議長が無視して決議の成立を宣言したことが決議の方法の法令違反等となるかどうか,
当該合併が独禁法第15条第1項第1号に違反するとした場合にそれが決議の無効事由となるかどうか等が,検討される必要がある
合併の効力発生の後
合併無効の訴えによらなければ,合併の無効は主張できなくなる
合併条件の不公正,独禁法違反等が合併無効事由になるか

採点実感
設問4
同条の適用に当たっては,X社の取締役の行為が法令違反の行為になるかという問題と,同社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるかという問題を検討する
学説上重要な問題として論じられている会社法第423条における任務懈怠としての「法令」違反(善管注意義務違反,忠実義務違反)と同様の議論が会社法第360条についても問題になり得ることを意識した答案は少なかった
※書かなくてもよさそうだ
基本合意を破棄してD社との合併を行おうとしているX社の取締役の行為は,取締役の善管注意義務違反という違法性の問
題としても,「当該株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがあるとき」の問題としても,論じられるべきものであることが分かるはずである

設問5
議決権行使書面と委任状,それぞれに関する法制の違いをどこまで理解しているかを試す問題であったが,ほとんどの答案は,これをきちんと理解していなかった
このことは,委任状の受任者であるZ社が会社提案議案に反対の議決権行使をしているにもかかわらず,同議案に賛成との記載のある委任状を特段の根拠を示すことなく同議案への賛成票に算入してしまっている答案がほとんどであったことに端的に示されている
賛否の記載のない議決権行使書面の効力については,会社法施行規則第66条第1項第2号という明文の規定があるのに,これに言及する答案はほとんどなく
※施行規則までおさえろとな

設問6
合併承認の総会決議が成立していないことを論じて,
そこから当該総会決議の取消しの訴えを提起するとともに,
それを本案とする実効的な仮の地位を定める仮処分命令の申立ての検討を論じることが期待された

独占禁止法違反や合併比率の不公正さが決議無効原因になるかという問題点をきちんと論じているものは,ほとんどなかった
合併の効力発生後は合併無効の訴えによらなければ争うことができない

問題

株主の権利としての差止

※合併の差止め、明文化さる 
平成26年改正前まで略式再編のみ認められていた差止が改正後は認められるようになった。

差止請求ができる組織再編の範囲の拡大
当該合併等が法令又は定款に違反する場合、その会社の株主が不利益を受けるおそれがあるときは、合併等の事前差し止めを請求できるようになりました(会社法784条の2、796条の2、805条の2)

本来、株主の権利であるはずの株主による差止請求の条文の配置は、第四章機関の第四節取締役の場所にある。

(株主による取締役の行為の差止め)
第三百六十条 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主は、取締役が株式会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって当該株式会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができる。
2 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。
3 監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社における第一項の規定の適用については、同項中「著しい損害」とあるのは、「回復することができない損害」とする。

条文の要件をみると
目的の範囲外の行為
その他法令若しくは定款に違反する行為
行っているか(終了していたら差止できない)行うおそれがある

かつ

それらの行為によって著しい損害が生ずるおそれがあるとき(※監査役、委員会設置会社は、回復する事ができない損害となっている。)
に差止請求できるようだ。普通に読んでも行うおそれがあるときとか、著しい損害ってどういう風に判断するのか疑問に思うところである。

合併無効の訴え

合併の無効原因は明文規定がなく解釈に委ねられている。
本問のような不公正な合併比率は無効原因にならない。
合併契約の承認決議に反対した株主は会社に対し、株式買取請求権を行使できるから合併比率の不当または不公正は合併無効の事由にはあたらない。東京高裁平成2.1.31百選91

(会社の組織に関する行為の無効の訴え)
第八百二十八条 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。  

七 会社の吸収合併 吸収合併の効力が生じた日から六箇月以内
八 会社の新設合併 新設合併の効力が生じた日から六箇月以内

そもそも、合併の無効というものがどういうものかという実体的な要件のようなものは何ら規定されていないようだ。

合併の無効原因
①合併契約の必要的記載事項の欠缺 大判昭和19.8.25
②合併契約等に関する書面などの不備置、不実記載 
③合併契約につき法定の要件を充たす承認がないこと
④株式買い取り請求の手続きが履行されていない事
⑤債権者の異議手続きが履行されていないこと
等が無効原因となると考えられる。岡伸浩・会社法P785

議決権行使書面による議決権行使と委任状に基づく議決権の代理行使

出題の趣旨には以下の論点が列記されているので法的性質とともに検討しよう。
賛否の記載のない議決権行使書面
白紙委任状
代理人が委任状の指示に反したとき
会社経営陣に反対する株主側が委任状を勧誘した
議決権行使書面と委任状により矛盾する内容の権利の行使を株主が行った場合の効力

定款による議決権代理行使資格制限

正確には議決権行使の代理人の資格を「株主に限る」という定款の規定が有効か無効かという話で、結論を先に言えば有効。
リーディングケースとして取り上げられているのは51年判決
つまりこの話、代理人を例えばこういう人に限るとか、そういう話ではなく株主しか代理人になれないという話なので、仮に定款で30歳以上の成人男性、借金なしに限るとか、(そんな事定款で決めないだろうが(笑))そういう定款規定については何も言っていない。
その意味で、なぜ株主に限るかと言えばそれは、端的に言えば総会屋のような輩を締め出したいからだろう。
もっとも、そういう輩は株を最低限買って合法的に出席するわけだが。
いずれにせよ判例も代理人の資格を株主に限る旨の規定は「株主総会が株主以外の第三者によつて攪乱されることを防止し、会社の利益を保護する趣旨に出たものであり」有効としている。
また、そうすると、会社の社員なんかを代理人として出席させるのも問題ないことになり、判例同旨。

議決権行使書面と代理人による議決権行使

「両制度の趣旨・意義,法的構造の違い等についての基本認識が問われている」とあるが、このような観点で解説されているものはないようだ。

「上場会社であれば書面投票が通常は強制されており(208②)代理行使できなくても議決権行使自体は可能
しかし、質問権の行使や動議に自らの意思を適切に反映させるには現実に株主総会に出席する必要がある」ひとりで学ぶ会社法P208

書面による行使にせよ代理人による行使にせよ、株主本人が出席しない場合に利用できるわけだが、確かに議決権を行使するという観点で言えば代理人を使わなくてもよい。
そうすると、代理人を敢えて使う理由もあると言える。
そこで、委任状による議決権の代理行使を考えた時、白紙委任はむしろこの趣旨に叶うと言える。
議決権行使の委任をしているのに、委任状に賛否を指定しているのも変な話と言える。(議決以外の部分で委任しているという趣旨かもしれないが、そうなれば結局その部分について白紙委任ということになる)

(会社宛てに送られてきた)白紙委任状の取り扱い
会社提案の議案について賛否を記載する欄を欠いた委任状を無効として議決権数に計上しなかった株主総会決議について、出席議決権数の集計方法(とそれに基づく可決承認の判断)に法令違反があるとして決議取消事由があることを認め、それに関連して、(株主提案の議案についての)賛否の欄を白紙にして(株主に)委任状を交付した株主の議決権の代理行使を認めました
複数の委任状が提出された場合について
株主総会開催日時に近い日にちに作成された委任状の方が株主の現在の意思を表していると合理的に解釈できることから、委任の時期の前後が明らかな場合(※委任状の日付は一応の推定力を持つにすぎないことに注意)には、後の委任に係る方の代理権行使のみを認めることになります。一方、委任の時期の前後が不明の場合(委任状の日付が同一の場合、双方が委任状の日付の正確性を争っている場合等)、委任者たる株主の意思が不確定ということになりますので、いずれの委任も無効と解し、両方に対して議決権の代理権行使を拒否せざるを得ないことになります。

法的構造などと大上段に構える必要はないだろう。

参考答案

会社法施行規則
(議決権行使書面)
第六十六条 法第三百一条第一項の規定により交付すべき議決権行使書面に記載すべき事項又は法第三百二条第三項若しくは第四項の規定により電磁的方法により提供すべき議決権行使書面に記載すべき事項は、次に掲げる事項とする。
一 各議案(次のイからハまでに掲げる場合にあっては、当該イからハまでに定めるもの)についての賛否(棄権の欄を設ける場合にあっては、棄権を含む。)を記載する欄
イ 二以上の役員等の選任に関する議案である場合 各候補者の選任
ロ 二以上の役員等の解任に関する議案である場合 各役員等の解任
ハ 二以上の会計監査人の不再任に関する議案である場合 各会計監査人の不再任
二 第六十三条第三号ニに掲げる事項についての定めがあるときは、第一号の欄に記載がない議決権行使書面が株式会社に提出された場合における各議案についての賛成、反対又は棄権のいずれかの意思の表示があったものとする取扱いの内容
三 第六十三条第三号ヘ又は第四号ロに掲げる事項についての定めがあるときは、当該事項
四 議決権の行使の期限
五 議決権を行使すべき株主の氏名又は名称及び行使することができる議決権の数(次のイ又はロに掲げる場合にあっては、当該イ又はロに定める事項を含む。)
イ 議案ごとに当該株主が行使することができる議決権の数が異なる場合 議案ごとの議決権の数
ロ 一部の議案につき議決権を行使することができない場合 議決権を行使することができる議案又は議決権を行使することができない議案
2 第六十三条第四号イに掲げる事項についての定めがある場合には、株式会社は、法第二百九十九条第三項の承諾をした株主の請求があった時に、当該株主に対して、法第三百一条第一項の規定による議決権行使書面の交付(当該交付に代えて行う同条第二項の規定による電磁的方法による提供を含む。)をしなければならない。
3 同一の株主総会に関して株主に対して提供する招集通知の内容とすべき事項のうち、議決権行使書面に記載している事項がある場合には、当該事項は、招集通知の内容とすることを要しない。
4 同一の株主総会に関して株主に対して提供する議決権行使書面に記載すべき事項(第一項第二号から第四号までに掲げる事項に限る。)のうち、招集通知の内容としている事項がある場合には、当該事項は、議決権行使書面に記載することを要しない。

株主総会の決議取消しの訴え無効確認の訴え

取消 831 招集手続 決議方法  法令若しくは定款違反又は著しく不公正
      決議内容 定款違反
      特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたとき
取消事由
招集手続「招集通知に漏れがあった」「招集の通知期間を守らなかった」「参考書類の記載に不備があった」
決議方法「取締役の説明が不十分」「定足数が不足しているのに決議がなされた」
※「その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさない」と認められるときは、株主総会の取消しが認められないことがあります(会社法831条2項)
※形式的には招集手続・決議方法に法令・定款違反が認められなくても、実質的にみて明らかに不当な目的があって株主総会決議が行われた場合には、「著しく不公正」であるとして取消し事由が認められることがあります。

無効確認 830 決議内容 法令違反
無効事由
公序良俗(民法90条)や株主平等原則(会社法109条1項)違法な剰余金の配当を行う内容とする場合(会社法461条1項参照)、欠格事由のある者を取締役に選任する場合(会社法331条参照)

決議不存在確認 
 (物理的不存在)議事録上は決議が存在したかのような虚偽の記載があるなど株主総会自体が行われなかった場合
 (法的不存在)事実上株主総会決議が存在したという外観はあるが法的にその存在を認めることができない場合※取締役会に基づかずに平取締役が株主総会を招集、予定された会場以外の場所で一部の株主が勝手に株主総会を行った

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